SIer 2.0
はてなブックマークをみたら江島さんのブログエントリーにすごい注目が集まっている。
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance:ニッポンIT業界絶望論
読んでみてハッとした。これはまさに私が(今、書いている本が一段落したら)取り上げようとしていたテーマそのものだったからだ。
でも、仕事が遅れていたり、体調不良だったので、何もアクションを起こせずにいると、同じくはてなに、こんなエントリーが注目を集めていた:
[みんなの回答]IT業界進化論: 絶望する前に”SIer 2.0”を目指せ
「SIer 2.0」ーーこれこそ私が秋頃、アクションをスタートした時にキーワードにしようと思っていた言葉だからで、ブログディナーなどで何人かの親しい友人には話していた。
先を越された!という悔しさは正直ちょっぴりあるけれど、うれしいのは同じことを問題に感じている人が他にもいるとわかったこと。
しかも、それぞれがまったく別のルートから同じ結論にたどり着いたことだ。
まだ、あまり時間に余裕がないので、ここでは私がどういうルートで、この問題にたどり着いたかを書かせてもらおう。
ご存知の通り、私はアップル関係、Mac関係の記事でよく知られている(それ以外にもブログ関連の記事や携帯電話関係の記事、SNS関係の記事などもよく書いてはいるのだけれど...)。
現在、MacPeopleというMac専門誌で、bizMacという連載コーナーを持っているが、このコーナーを始めたそもそものきっかけは、ここの2〜3年、仕事で本格的にMacを使っている人が増えている感触があったからだ。
特にシリコンバレーでは顕著だ。例えばGoogle社などもIPO前は、ThinkPadユーザーが圧倒的に多かったが、昨年訪問したときはそこら中にMacユーザーがいる。会議室にも必ずMagSafeの電源アダプターがあって助かるくらいだ。
今年、Foo Campにいった時も、WikipediaのJimmy WalesもMacユーザーなら、Tim O'Reillyも、Twitter創業者のEvan Williamsも、その他の多くの人もMacを使っている。友達になった人でMacを使っていなかった人と言えば、マルチタッチのデモで有名なJeff HanとPhotoSynthのデモで有名なBlaise Aguera y Arcasくらいしか思い浮かばない。
彼らの中には、元々、Windowsを使っていたが、最近になってMacに乗り換えた人も実に多い。
Macにひかれた理由はというと、Macの外観だったり、Expose機能だったり、ただ単に新しいものをつかってみたかったからだったり、UNIXベースで開発中のコードをすぐに試せるのに本物のOfficeが使えるという点だったり、さまざまだ。
だが、彼らをMacに移行させた要因として大きいのは、
- UNIXベースであること
- インテルベースでWIndowsも動き、しかも、Bootcampを使えばWindowsマシンとしてのパフォーマンスも高いこと(PC WORLD誌は、MacBook Proを今年レビューした中で最速のWindows Vista対応ノートと評している)
- 今や米国の多くのIT企業の社内システムはWebアプリケーションベースに移行しており、Webブラウザさえちゃんと動けば、もはやマシンのOSなんてなんでも構わなくなっていること
といった理由があると思う。しかし、この最後の社内システムがWebアプリケーションベース、という部分の進化が日本ではなかなか進んでいない。
こうしたIT系企業と、いわゆるエンタープライズをごっちゃにするのは多少無理があることは認めるが、ここで日本の仕事ユーザーがMacになかなか移行できない理由を考えていくと...
「無料なもの、オープンソースなものが多いWebアプリケーションを紹介しても、我々の儲けにつながらない、サポートも仕切れない」といって、ガチガチに組まれたカスタムアプリケーション、カスタム・ソリューションを提供し続けるSIerがボトルネックになっている気がし始めていた。
すべてのSIerがそうだとは言わない。中にはWebアプリの動向にも注意を払い、そうしたものを適材適所で取り入れようとしているところもある。
しかし、多くの影響力を持つSIerはSier 1.0で、ここが日本でのMac普及のボトルネックにもなっていれば、海外で誕生した優秀なWebアプリケーションが日本市場に進出する際の防波堤にもなっている気がする。
実は先日、アメリカでデビューしたばかりの非常におもしろいソフトについての説明を受けた。
米Serena Software社の「Serena Mashup Composer」というソフトで、ビジネス向けのマッシュアップを構築できる。
マッシュアップというと、同じWebページにGoogle Mapと、del.icio.usの情報が一緒に表示される、といったデータのマッシュアップばかりが思い浮かぶが、この「Serena Mashup Composer」がやろうとしているのはビジネスロジックのマッシュアップだ。
例えばSalesforce.comが公開している情報やクレジットカードの承認サービスのAPIを公開してるサービス、くいった公開されているAPIをうまく組み合わせてカスタムのビジネスソリューションが簡単につくれてしまう(deploymentにはお金がかかるが、試しに開発する分には無料なので、ぜひ試してみて欲しい:Serena Mashup)。
関連記事:
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(私も余裕がなくて記事化していないけれど、インタビューはしています)
'90年代に流行ったRADツール同様にロジックとロジックを線でつないでいくだけで、簡単にソリューションがつくれてしまうので、社内にITに詳しいエクスパートが1人いれば、もしかしたらSIerに頼む必要もないかも知れない。
だが、その後、このソフトについて話をしたIT業界の重鎮の方々から、今の日本のSIerのベースがある以上、こうしたものを日本で普及させるのは難しいのではないか、という議論になった。
このお話を伺った方の1人は日本のIT業界に並々ならぬ影響を与えたスゴイ方で、これまでの経験を踏まえたお話には説得力があった。
その彼が、やはり、今のままのSIer達をそのままにしていたのでは、日本のIT業界に大きな進展は臨めないという話をしていて、ものすごく共感し、感銘を受けた。
そしてそこで日本でMacが普及しないのも、SIerにコネがあるWebアプリは広まっても海外の優秀なWebアプリが広まらないのも、すべてSIer 1.0のせいなのではないかという考えが高まってきていたところだ。
いずれ、本の仕事が落ち着いたらどこの媒体になるかはわからないが、その重鎮の方のインタビューも含め、どこかのエンタープライズコンピューティング系媒体で、たっぷり取材をして記事にできればと思っている(もっとも、私の専門分野ではないので、私が書けるのはほんの一部だが...)
江島さんや吉澤さんの記事を見たのは、ちょうどそんな気持ちが高ぶり始めているときで、実は外から見たSIerのあり方も問題なら、内側から見たSIerのあり方も問題だらけで、でも、誰かがイノベーションや変化を恐れて、問題があるまま突っ走っている人が多いんじゃないかと実感した次第だ(ちなみに江島さんにはMacを仕事でバリバリに使っているユーザーの実例としてbiz Macの第1回目で登場してもらった)。
私はSerenaの製品を見て、社内に会社規模に応じた人数のパワーユーザーを用意し、彼らにシステムを任せれば、SIerはいらないんじゃないか、という気にもなったが、その一方で、どこかにもっとうまいSIerの居場所や役割もつくれるんじゃないか、という気もしている。
これまで、私が「SIer 2.0」のアイディアを話した相手からも、「それはなかなか(経営者のメンタリティーを変えないと)難しい」といった意見も含め、いろいろな意見をもらったが、いろいろ話すうちに、「SIer」という言葉が、日本の音楽ビジネスの発展を阻む権利団体などと重なって見えてきた。
今年は津田さんや小寺さんが奮闘し、日本のコンテンツのあり方についての激しい議論をつづけてきたが(まだまだほんのスタートポイントだけれど)、来年はその議論をさらに企業のあり方にも広げていければと思う。
それまでに企業のトップの方々には、何も考えずに、これまで通りのSIerに任せてしまうのではなく、少なくとも社内のIT系に詳しい人材に、今のSIerの仕事ぶりを評価、再考してもらう、くらいのことを始めてもらってもいいのかもしれない。
とりあえず、今日はお腹を壊してダウン中ですが、本が一段落したら年末から来年前半にかけては、このテーマをさらに詳しく追ってみようと思っています。
[要するに外側から見たときのSIerの問題は、クライアント企業のベネフィットを本当に最優先させてくれるか、それとも自分たちの限られたノウハウの中で、自分たちのビジネスを最優先させてシステムを組んでしまうか、そこのところにある気がしてならない]