ダメは誰でも言える。できると言えることこそが大事!
「D&DEPARTMENT」は、「ロングライフ・デザイン」を唱い続けているナガオカ・ケンメイさんのお店で、これまで東京と大阪で展開していたが、ケンメイさんが自身のブログで47都道府県に拠点をつくる「NIPPON PROJECT」構想を語り、パートナーを募ったところ、続々と応募があった。
ただし、ケンメイさんは、これをフランチャイズ展開のようにして、ヘルプするつもりはない。「パートナーの方がちゃんと自分でリスクを背負って、店をつくらないと、本当に長続きする店はできない」という考えだ。
パートナーには、自己資金を投じ、その地域で、どういう特色を出せばいいのか自分で考えてビジネスを展開することを求めている。
この高い要求に、真っ先に答えるべく手を挙げたのが、札幌3KG代表の佐々木信さんだった。
佐々木さんには、Apple Storeでの講演であった後、ナガオカさんの60 VISION発表パーティーで挨拶。そのおかげで、明日のオープニングの招待状ももらったが、あいにく別のイベントが重なってしまっていけそうにないので、ここ東京からエールを送らせてもらう。
最近、日本ではこのようにチャレンジをする人が少なくなってきている。
先日のWeb 2.0 ExpoのTIm O'Reillyと伊藤穣一さんの対談でも、失敗を覚悟でチャレンジをすることの大事さが話題になり、翌日のTIm O'ReillyとEvan Williamsの対談では、Evanが失敗続きの道のりを語ってくれた。
今や表参道ヒルズから東京ミッドタウンの21_21 DESIGN SIGHT、そして新東京タワーまで手がける建築家、安藤忠雄の著書にも「連戦連敗」というのがある。
世界をまたにかけて成功する人の影にも失敗の歴史はあるのだ。
彼らの本来の敵は自分自身だ。どこまでできるのか、ギリギリのところで勝負している人は、常に「まだ頑張るべきか」、「ここらで妥協すべきか」のせめぎ合いで戦っている。
そんな彼らの「やる気」をくじこうとするものの中で、大きな割合を占めるのが周囲の言葉だ。
「そんなのダメに決まっている」「あ〜、前にもそんなのあったよね」といった無責任な言葉。
そんなのをいちいちまともに受け止めていたら、今頃、ウォークマンもiPodもMac OS Xも、いや、それどころか自動車も、飛行機も、世の中にはなく、世界は無味乾燥な砂漠のような世界になっていたかもしれない。
それでも、とりあえずひとこと、そういうことを言ってみる人が実に多く、それが多くのベンチャーやイノベーターの心の重荷になっている気がする。
実はそこまで大げさな話でなくても、普段の会社のちょっとしたプロジェクトや、企画なんかにしても、自分で代案とか改良案を出すでもなく、ただ「ダメなんじゃん?」とか言ってくる人が大勢いる。実は今日、親友のそんな愚痴を聞いていたのもあって、このブログを書いているのだが、彼の経験をみても(私の経験と照らし合わせても)、そういう人に限って、万が一、やっていたことがうまくいっちゃうと、「自分はその件について、古くからいろいろ意見をいっていた」とか言い出したり、中には「自分は最初から成功すると思っていた」とか言い出したり、ヒドイと功績を横取りするような人までいる。
それでいて、失敗に終わったら「だから、言ったじゃん」と切り捨てて、真っ先に責任を回避する。
要するに「リスクを取らない」人達だ。
こういう人達が、まわりにいると、能力のある人、やる気のある人も、どんどんやる気を失い、世の中はどんどん無味乾燥の砂漠に向かって風化していく(私も、もう思い出すのも嫌だが、それで1〜2年はモノを書くのが本当に嫌になり「アップルコンフィデンシャル2.5J」のあとがきでは、ついそのことを愚痴ってしまった)。
でも、実際には、頭をひねってじっくり戦略を練ることで、誰もがやれないと思っていることですら可能になってしまうことも多い。
例えばブロードバンド通信。日本ではNTTが「日本はISDNでいく、ISDNと干渉するADSLは受け入れられないだろう」といっていた時、多くの日本人は「常時接続はアメリカでしか実現しない」とあきらめていた(この時代の東京めたりっく通信やソフトバンクのがんばりは今でも賞賛に値するだろう。頑張った人達に、ちゃんと敬意を払って賞賛することも、頑張るカルチャーを広げる上で重要なことだと思う)。
同様にアップル好きでこのブログを訪問している人でも、1996年には、「もうアップルはもって数年だろう」と思っていたはずだ。それが今やiPod/iPhoneである。
「不可能は可能にできる」
「できない」ことを「できない」というのは、誰でもできることだが、本当に大事なのは「それを実現する方法を考える」ことだーー人間の頭は、まさにそのためにある。
以前、多くの天才を輩出しているCal Arts(ウォルトディズニーがつくったアーティスト向けの大学)を取材したことがあるが、ここでも、まさにそういった頭を使わせる教育をしている(日本の教育の話題をしだすと、キリがなくなりそうなので、そこはあえて今回はふれないでおこう)
3KGの佐々木氏や、「もういい!面倒くさいから俺が全部やる!」といって戦っている人達をみると、自分ももっと頑張らなきゃと勇気づけられる。
これからもこういう責任の持てる大人、かっこいい大人をどんどん応援していきたいと思う。
ちなみに、こういう話をすると、つい、「日本は〜」と日本のことだけのように書いてしまうのが、私の悪い癖だが、程度は違うが、海外でも、挑戦者達は同じ問題に悩まされている。
今、移動時間を使ってチビチビと読んでいる「The Myths of Innovation」(scott berkun)という本に、こんな一覧表が載っている。
The list of negative things innovator hear
- This will never work.(そんなのうまくいくわけがない)
- No one will want this.(誰もそんなの欲しがらない)
- It can't work in practice.(実際にやったらうまくいかないだろう)
- People won't understand it.(誰もわかってくれない)
- This isn't a problem.(そんなことは問題になっていない)
- This is a problem, but no one cares.(それは問題だが、誰も気にとめていない)
- This is a problem, and people care, but it will never make money.(それは問題で、人々も気にしているが、お金にはならない)
- This is a solution in search of a problem.(それは問題を探すための解決策のようなものだ)
- Get out of my office/cave now.(俺のオフィス・洞窟から出て行け)
(最後の洞窟というのは、著者のBerkunが、こうした批判は原始時代からあったはずだ、と書いていたことからきたジョークだ)。
挑戦者は、そうした批判の声に負けないタフな精神も必要で、この本はそんな挑戦者らへのいい応援のメッセージで満ちている。
さて、挑戦をしている人の敵は、自分自身だと書いた。
挑戦者は「これはこうに決まっている」、「仕方がないから諦めるか」と戦っている。
日本のイノベーターは、こうしたところでの一踏ん張りが弱い、と少し感じている(なんて、自分もぜんぜんエラそうなことは言えないが)。
これに対して、アップルのスティーブ・ジョブズの例をあげるまでもなく、アメリカのイノベーターはタフだ。
決して表面的な解決策で、その場しのぎのごまかしをしようとせず、問題の本質に正面から立ち向かっていく。
実は昨晩の学研訪問でも、そう思わされるところがあった。
学習教材やおもちゃをつくるメーカーにとって、「危険」は何よりも敏感にならなければならないキーワードだ。
PL法が施行されてからはなおさらで、最近では、昔のように、やや危険をともなう実験や工作を気軽に紹介できない風潮がある。
いったい、どこから、悪評をかけられるか、わからない。
エスカレーターで不慮の事故があると、被害者の履いていたサンダルが、まるでそのサンダルが悪かったかのようにして報じられる世の中だ。
昔、よく聞いた笑い話に「アメリカ人が濡れていた犬を乾かそうと思って電子レンジにいれたら犬が死んでしまい。電子レンジ会社に、マニュアルに犬を乾かしたらいけないと書いていなかったと訴えた」というのがあるが、日本もだんだん、それと変わらない状況になってくる。
いや、日本はもともとそうだったのかもしれない。
日本を代表するある工業デザイナーが、アメリカの有名企業にうつってしばらく、日本の工業デザインと海外の工業デザインを、国立公園の景観に例えた。
海外であれば、崖があったり、野生の動物がいる危険な場所であることは、訪問者が個人の責任で承知しているべきことという考えが多い。
美しい景色のすぐ先が、断崖絶壁になっているようなことも多い。
これが日本だと、せっかくの美しい景色の前に、「きけん!」「危険!」「下見ろ!」「毒キノコ注意」「ヘビ注意」「クマに注意」とカラフルな看板が並び、せっかくの景色を台無しにしている。
それでも、猪が出てきてケガをしたら「猪注意」と書いていなかった、とクレームをつける人が出てくるかもしれない。
危険に注意を払うことは、子供達の安全を守る上で、重要なことのようにも思えるが、こういうものには、バランス感覚が大事だ。
過ぎたるは及ばざるがごとし。
行き過ぎると、子供も、その子供を育てる親もどんどん馬鹿になっていく。看板がないときに自分で判断ができなくなっていく。
そして、管理する側も「とりあえず、警告をだしておいたから、あとは大丈夫」といった具合にバカにしていく副作用がある気がしてならない。
話が横道にそれたが、Phillip Torroneさんによれば、雑誌「MAKE」では、「自己責任」をプロモートしているという。
危険が伴う工作には、きちんと「危険」という印を付け、ときには「発砲スチロールを切るのにのこぎりは使わないように」といった注意をいれたり、ときには「この作業は危険です」と注意をうながした上で工作を紹介する。
クレームを恐れて紹介せずに逃げるのではなく、読者に自己責任と「注意」の心を換気させた上で、しっかりと紹介するのだ。
なんとも本質的なアプローチで、これがうまくいっているということは、私の他の友人にとっても大きな心の支えになるような気がしてならない。
「あきらめる方法」を考えるよりも「可能にする方法」を考えた方が、その先に広がる未来もずっと楽しくなる。
さて、堅い話を長々と書いてしまったが、そのPhillip Torrone氏も大ウケしていた学研の新商品を最後に紹介しよう。
その名も「コロボット」。転びながらも、何度も立ち上がりながら進むロボットだ。
なんともベンチャースピリットをくすぐるではないか(これ、日本のベンチャー起業家は必須!?)
多くの二足歩行ロボットは、立ってちゃんと歩くことを前提にしているけれど、このコロボットは、転ぶことが大前提で、転んだ後でもちゃんと立ち上がって、またヨロヨロしながらも前に進み始める。
なんと、わずかモーター1個で動いているというのだから驚きだ。
来週、29日の発売とのことだが、大人の科学の「テルミン」も売り切れで手に入らないことだし、このコロボットも、売り切れ必至な気がして今から心配だ。
執筆時点で、画像は出ていないが、既にamazonで予約注文が始まっている。
P.S. Amazonといえば、来月、2冊、本を出す。
これまで共訳、共著はたくさん手がけてきたが、雑誌やWebの仕事が忙しく、なかなか単著(自分1人だけで全部を書いた本)はなかった。
それがヒョンなことから、2冊、ほぼ同時発売のタイミングで発売することになった。
一冊はアスキー、一冊は日経BPから出る予定で、執筆時点では一冊がamazonに、一冊はYahoo!ブックスで予約受付が始まっている。どんな本か興味がある人は、探してみて欲しい。
このブログ記事と同じ思いで書き上げた2冊だ(まだゲラを読んでいるけれど)
(ついでに、今月発売になった共著本2冊もよければ探してみてください)。
---この記事に出てきた関連書籍をまとめておきます---
コロボット | |
Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ーーーーーーーーー
The Myths of Innovation | |
Scott Berkun Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ナガオカケンメイの考え | |
ナガオカ ケンメイ おすすめ平均 共感だらけで怖いぐらい Amazonで詳しく見る by G-Tools |
連戦連敗 | |
安藤 忠雄 おすすめ平均 自分は建築系でもなく若くも無いけれど ただのひと 安藤忠雄とプラグマティズム 負けは勝ちに繋がるばかりではない 負けつづけてもなお挑戦する姿勢に感動。 Amazonで詳しく見る by G-Tools |