震災後56時間の間に考えていたこと
続いて一番、支援が足りていなさそうな人
帰宅してからは3日間、家にこもり、ずっとTwitterとにらめっことなった。画面の向こう側に被災して大変な思いをする大勢のリアルな人々がいる。その仲に思いっきり自分が親しくしている人もいて、不安で大変な思いをしている様子も、数少ないつぶやきを通して確認していた。
「何かをやらなきゃいけない」
おそらく、そういう思いにかられたのは私だけではないだろう。おそらく震災地に関する、より詳しい情報は誰かがテレビなどを見て書いているだろうし、渋谷駅を離れた後の私ならではできる、まだあまり他の人ができてない支援は何だろう。そう考えて、私が始めたのが英語での情報提供だった。JRの駅に行っても、バス停に言っても用意されている情報は英語だけだった。渋谷の交差点の辺りでは、何が起きているのか情報を得られず困っている外国人の方を大勢見かけた(この初動のために、多くの英語圏の人が私を「信頼できる情報源」として紹介してくれたが、その分、後々、英語でつぶやく人を大勢見かけ始めてからは、すっかり日本語のつぶやきばかりに戻してしまったので罪悪感を感じることになる)。
実際のツイートは、Twilogに記録が残っているので、そちらを見てもらうといい(他の人のつぶやきの公式リツイートは表示されない):
その後、Think The Earthのオフィスにお邪魔し、数時間そうしたつぶやきをしていた後、無事、電車で帰宅してからの私は数日間、家に閉じこもることになる。
次にニーズのハッキリした人
タイムラインの向こう側には、真剣に困っている無数のリアルな人々がいる。交通麻痺で家に帰ることが出来ず途方に暮れる人々、家族の安否を気遣う人、今にもバッテリーの切れそうな携帯を持って瓦礫の下にうずもっている少女、食料や飲み水を探して遠い距離を歩く人々。
タイムラインのこちら側からでも、何かができるんじゃないか。
情報を求めている人がいれば、それを調べ教え、調べてもわからない情報は公式RTをして、誰か知っている人の反応を待った。広める必要がある情報があれば、嘘を広げないように相手をフォローしてDMでしっかりインタビューして、その上で情報をRTしたり、もっと伝わりやすいカタチに編集してつぶやいた。
気がつくと、周りにも必死で同じことをしている人達が大勢いた。
個人的にはどなたかが公式RTしてくれていた芸能人の加藤夏希さんのツイートが、よく目に付き、バランスのとれたつぶやき方に好感を持ったのでフォローさせてもらい、いくつか私も彼女のつぶやきを公式RTさせてもらった。熱心につぶやいていた有名人は彼女だけではないだろうが、いずれにせよそんな有名人の方も現地を真剣に心配し行動してくれると知っただけで勇気づけられる人がいるんじゃないか、という思いもあった。
やがて、助けを求める人も、情報伝播の効率がいいフォロワー数の多い人宛に「【拡散お願いします】〜〜〜で人が孤立していて救助を必要としています。助けて下さい。」といったつぶやきを送ってくるようになった。
私は好きと思う情報、これはいいと思う情報が自然にRTされるのが好きで、人工的に「拡散お願いします」と頼まれることが嫌いだが(長い目でみるとTwitterをダメにしてしまう行為に思えてならないので)、そうしたつぶやきを送ってくる数人のタイムラインを見て驚いた。
例えば、つぶやきが「【拡散希望】〜〜〜で人が孤立していて救助を必要としています。助けて下さい。」というメッセージだとすると、同じつぶやきをコピー&ペーストで延々とフォロワー数が多い人宛につぶやいている:
@masason 【拡散希望】〜〜〜で人が孤立していて救助を必要としています。助けて下さい。
@takapon_jp 【拡散希望】〜〜〜で人が孤立していて救助を必要としています。助けて下さい。
@kazuyo_k 【拡散希望】〜〜〜で人が孤立していて救助を必要としています。助けて下さい。
@kohmi 【拡散希望】〜〜〜で人が孤立していて救助を必要としています。助けて下さい。
@
....
といった具合だ。そして、その合間に家族や兄弟にTwitterの使い方を教えるつぶやきがあったり、知り合いに自分の安否を教えるつぶやき。その必死さから事態の深刻さがひしひしと伝わってくる。数日後、家の外に出たときまで、東京はほとんど無事だったということを忘れ、すっかり自分も被災したかのような錯覚に陥っていた。
想定ニーズに基づく被災地外からの情報選びは慎重に
最初は個々人での動きが目立ったが、やがて組織だった動きが目立ち始める。被災地に関する情報を提供するWebサイトが次々と立ち上がったり、計画停電に関する情報を提供するWebサイトやアプリケーションなどが次々と立ち上がり始めた。
そうなると、やがてそうしたサイトをつくった人達からも「こんな支援サイトをつくったのでつぶやいて紹介して下さい」という@付きのつぶやきやDMが寄せられ始める(私は「おすすめユーザー」というのに選ばれたおかげで20万人ほどのフォロワーがいるため、いいタイミングでつぶやけば、それなり(といっても数百〜数千)の人に見てもらえる、と期待している人が多い。もっとも、実際には「何よりも大事なのはつぶやきの中身」だと信じたい派)。
さらにしばらくすると、何十という企業や団体から「募金を始めたのでツイッターで知らせて欲しい」という@付きのつぶやきやDMが寄せられ始める。「東京からもできることがあると思い募金活動を始めました。宣伝して下さい」、「ウチも始めましたのでぜひ紹介して下さい」。
おそらく私以外の人も最初の数日は、計画停電などで電車が動かない可能性もあるので、家に閉じこもってTwitterばかりやっていた人が多かったはずだ。私も情報量があまりにも増えているので、せっかくつぶやいた被災地の方からの重要な情報が、私の最新20つぶやき(1画面にひょうじされるおおよその数)からあふれないように、できるだけインタビューなどで情報を厳選していたのに、今度はそこに、どの情報支援サイトを紹介すべきかという検証作業が加わり、どの募金サイトを紹介すべきかという難題も加わった。
とりあえず、募金は1箇所に集中しない方がいい、とは思ったが、どこに募金するのがいいのか把握していなかったので、一部の知り合いには「募金の紹介をするフェーズとは思えない」と返事をした上で、全幅の信頼をおいている @ThinkTheEarth のつぶやきを公式RTするだけにとどめていた。
私のつぶやきが募金活動をしている企業や団体名の一覧で埋まっていることが、それほど有益だとは思えなかった。目にしたすべての募金活動1つ1つ回って募金をし続ける人はいない。
いずれの企業や団体も、この時期に宣伝活動のつもりでなく、現地のことを心配して募金しているところが多いと信じている。ならば、わざわざ「〜〜が募金活動をやっている」と知らせるよりも、募金まで頭が回らなかった人が普通に日常生活を送っていて目に付く場所(コンビニやお店、美術館、イベント会場、スーパー、あるいは見ているテレビ番組や見ているWebページのそこかしこに募金の受け皿があれば、それでいい、ということではなかろうか。もし、その網の目をくぐって、一切、募金の窓口に遭遇しない生き方があるなら、その人のタッチポイント(接触点)に関わる業種/業態の人に新たに募金活動をはじめてもらうことは重要かも知れない。でも、改めて、どこの企業が募金活動をしている、と知らせる必要もなければ、どこそこの団体は知り合いが多いから(や義理人情を感じるから)他でも募金しているけど、そちらでも募金、というのもなんだかおかしな話だ。
ならば「どの分野での募金活動が少ない」ならともかく、「どこが募金をやっている」かをわざわざ知らせるのではなく、たくさんある選択肢のうち、どこで募金を行うかは、個々人の偶然性と自由な選択に任せていいんじゃないかと思う。
ちなみに私が個人的に1つだけ推したい募金方法があるとすれば、先にも紹介したThink The Earthが行っている「Think The Earth基金」だ。
マスメディアなどで行われている募金活動も、私に紹介して欲しいと頼んでくる多くの募金活動も、ほとんどは最終的には日本赤十字社などの大きな団体にお金を預ける。
Yoko Onoさんや多くの有名人も勧めるように、赤十字は信頼がおける団体だと思うし、その活動も素晴らしいと思う。ただ、やり方は1つではない、と思うのだ。そうした大きな団体で集められるお金は、一度、大きな額になるまでプールされ、そこから団体の義援金配分委員会が立て配分計画に基づき、見舞金として配られる。
では、もう1つのやり方というのは何かというと、災害後、 すぐに現地入りし活動しているさまざまな分野の経験を持つプロフェッショナルに、すぐに役立ててもらう方法だ。炊き出しを助ける人や子供の ケアをする団体、復興を支援する団体など、どの団体がお金が必要かは、フェーズの移り変わりによっても変わってくる。おそらく今は復興支援や移住の手伝いといったニーズがあるだろう。4/2に行われたThink The Earth主催の「Earthling 2011:ほんとうの震災を知ろう」の第2部で非常に有意義なディスカッションが行われているので、ぜひ見てみて欲しい(このイベントについては、私もいずれブログの別記事にまとめたい)
私がグーグルを信じた理由
少し、話が脇道にそれたので、私が3月11日から3日間に考えていたことに戻そう。
既に書いたように、募金以外で「Twitterで紹介して欲しい」、という要望が多かったのが、さまざまな企業・団体がつくっている震災情報のサイトだ。つくった企業・団体からの案内も、実際にそれで必要な情報を見つけたという人からの推薦のつぶやきも多かった。
何とか助けたいと思って行動を起こす気持ちはわかるし、それは素晴らしいことだと思う。
しかし、これもすべてのサイトを紹介することは、かえって情報を必要としている人にとってマイナスになると感じた。
Twitterのつぶやきで、どれか特定のサイトだけを強調するのは難しい(繰り返しつぶやけばいいが、あまり繰り返すと「オオカミが来たぞ」の嘘と同じで信頼されなくなる)。
ならば、やはり、これも吟味してせいぜい2つ、3つのサイトだけを紹介するのがトクだろうと考えた(たくさん、案内をもらっていたので、それら1つ1つにDMですぐには紹介しない旨とその理由を送り、相手が私をフォローしていない場合は、サブアカウントの @nobi_com から公衆のつぶやきで、それを伝えた)。
どのサイトを紹介すればいいかの1つめはすぐに決まった。
Google Crisis Respondだ。このサイトは、立ち上がりも素晴らしかったし、過去にいろいろな被災地で役立った実績から、バイリンガルでの情報提供が行われていることも含め情報の網羅性ガ素晴らしかった。
唯一の欠点はURL(アドレス)がわかりにくいことだったので、3月11日には http://nobi.cc/GoogleJishin という短縮URLをつくって、その後も繰り返し広め続けた(現在はこのリンクはそのままアクセスできなくなったが、代わりにGoogle独自の http://goo.gl/saigai という短縮URLが用意された)。
Google Crisis Respondを選んだ理由はいくつかある。
1.堅牢性
1つ目はサーバーの堅牢性(安定性)だ。3/11の深夜、計画停電を発表すると、東京電力のサーバーはアクセスが集中して、あっけなく利用不能状態に陥ったのは覚えている人が多いだろう。
だが、この時、なぜかグループ分けの表だけは、サーバーが落ちている間でもダウンロードができたことは御存知だろうか。何故だろうと思って、ダウンロード先のアドレスを見てみると、実は東京電力のサーバーではなくGoogle Docsが用いられていた。表のアドレスを知っている人は、トップページを知っている人よりもはるかに少ないので、この2つの比較に意味はないが、象徴的ではあったと思う。
TwitterやUstreamのようなサービスにしても、やはりグローバルスケールで展開し、成功しているサーバーは日本だけで展開しているサービスより2桁3桁多いアクセス数を想定している。
これに対して、すぐに使えなくなった携帯電話網と同じで、国内の利用者だけを想定している日本のサーバーは脆弱なものが多い、という印象が強まった(Art for Lifeというイベントで一緒にパネルをした文化庁の方は、ITに精通した方で文化庁のサーバーは大幅に処理能力を増強した、といっていた。ちなみに震災後、「公式RTのススメ」という記事でかなりアクセスがあった当ブログも、KDDI WebコミュニケーションのCPIという堅牢なサーバーのおかげで落ちずに情報提供ができたと認識している)。
2.対応プラットフォームの多さ
2つ目は、対応プラットフォームの多さだ。Googleは、まだ日本でほとんどその名が知られていない2001年に、多くの日本企業にも先駆けてiモード携帯電話で、パソコン用Webページを表示する技術を提供したように、自ら提供する情報を、どこからでもアクセス可能にすることをミッションの1つに掲げている。
最近ではAndroidの会社として、iPhoneとは敵対関係のように思っている人もいるかも知れないが、実はiPhone向けにもっとも進んだアプリケーションやWebサービスを提供しているのもGoogleで、その勢いはAndroidの発表後も、まったく鈍っていない。Android端末ではiPhoneとの差別化のためにFlashのサポートを唱う一方で、Webページの方はFlashを一切使わないどころかiPhoneの画面サイズにあわせての情報提供も行っている。
つまり、Googleが提供する情報なら、パソコン、従来の携帯電話、iPhoneを含むスマートフォン、据え置き型ゲーム機、携帯型ゲーム機など、あらゆるデバイスから利用できる。
これに加えて、例えば通信環境の悪い場所で重要な、より少ない通信で、より大量の情報を速く届けるための、非常に地道で労力がかかるわりには、ちょっと見ただけではわからないページの最適化など、Googleには、そういうことができるトップクラスのエンジニアが揃っており、それをカタチにしている。
3.多様な視点が入っている
これは私自身がGoogleのカルチャーを知っているからこそ思ったことかも知れないが、Googleというのは、本当に驚くくらいに多様な分野の専門的知識を持った人材の宝庫だ。Google Crisis Respondも、そうした人材のうち災害に詳しい人が立ち上げ、ハリケーン・カトリナやスマトラ沖地震などでの活用で、ノウハウが蓄積され、改善されたものだ。
被災者の視点も入っていれば、支援する人の視点も入っている。
また、世界中の本をデジタイズすることを目標にしたGoogleブック検索や、道路から見える風景まで検索可能にしたストリートビューなどでわかるように、いいバランスでアナログの視点も持ち合わせている。
今回も、すぐに避難所では、名簿をデジタル化する術も、能力も、電力もない、ということにいち早く想像力をめぐらせ、名簿の写真を集める「避難所名簿共有サービス 」を立ち上げた。
携帯電話がつながったところで、名簿の写真を撮ってもらい送ってもらえれば、後はOCRなり、人力なりで検索可能にできる。ブック検索などを知っている人であれば、このことにピンと来たはず。私も何度かTwitterを使って、もっとも現実的な方法として、これを紹介させてもらった。
Googleはそもそものミッションが「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」。ニーズのある情報をみつけ、それをアクセス可能なカタチにすることはグーグルのミッションそのものなのだ。
4.Googleのサービスは進化する
これも私がGoogleという会社をよく知っているからこそ、実際にそうなる前からわかっていたのかもしれないが、Googleのサービスというのは常に進化をする。
進化というのは提供情報が増える、というだけでなく、既に提供済みの情報も、より利用しやすく改善されていく、ということだ。
実際、3/11のGoogle Crisis Respondと、今日見る同サイトでは外観も提供している情報もまったく異なっている。Googleの社員は就業時間のうちの20%を好きなプロジェクトに費やすことが出来るので、震災後は多くの人が震災関連の情報提供にこの時間を当てたため、自社で提供する情報も他社との連携も強めていった。同時多発的にもの凄い勢いで増えていった。
例えば有名なのは
これはHONDAがインターナビというサービスなどで提供している、走行実績のデーターを元にしたマップだ。カーナビというと情報を得る装置と思いがちだが、インターナビでは、自分の車がどこを走っているか、というデーターをサーバーに返すオプションがあり、これをすることで、どこの道路ではどのくらいのスピードで車が流れているかがわかる。
実はこの情報が寸断された道路も多い災害時に非常に役立つ。どの道路は車が通れるかがわかるからだ。以前、モバイル/交通ジャーナリストの神尾寿さん主催のイベントで、これを知った私は目から鱗だった。それを覚えていた私は(おそらく他にも大勢いたと思うが、12日の朝方、「カーナビメーカーさん、一般道の状況や、通行可能な道がわかるようにプローブ(車の流れの情報)情報公開してくれないかなぁ。もちろん、最優先の緊急車両の移動妨げになるようなことにはなってはならないけど…」などとつぶやいていたが、ホンダさんは既に動いていたようで、その日の午後にはHONDAがGoogle Earth用にデーターを提供していた。
そしてその日の深夜には、これがGoogle Crisis Respondに統合されていた。
現在、同ページではパイオニア(株)・トヨタ自動車(株)・日産自動車(株)のデーターも受け、特定非営利活動法人 ITS Japanがデーター統合した情報を提供している。
(ちなみにArt for Lifeというイベントで @OKADATOMOHIRO さんから聞いたが、この情報の表示部分をデザインしているのは、米国のグーグルのスタッフではなく、日本のアーティストの方だという)。
Googleの進化というのは、情報を増やすだけではない。ブラシュアップも常に行っている。
先に紹介した、避難所名簿の写真を募集する「避難所名簿共有サービス 」は、言葉だけではコンセプトを伝えにくいサービスだ。私も同サービスについて何度もつぶやいたが、その度にわかりやすくなるように言葉尻を変えていた。Googleもその難しさに気づいていたのだろう。
表示する場所を変えたり、解説文を増減したり、いろいろ工夫していたようだが、ついに決定打とも言える方法にたどり着いた。実際の写真で映し出された名簿のイメージ画像をGoogle Crisis Respondのページに表示するようにしたのだ。これを見て「なるほど!」とひらめく人が増えたはずだ。
5.Googleなら継続して情報提供と洗練を続けられる
Googleのサービスを筆頭に選ぶ最大の理由は、Googleなら情報を継続的に更新してくれると信じていたし、社員も20%ルールで給料をもらいながら、それができる体制があるので、サービスの持続性の点でも信頼が出来るからだ。
だからこそ、ページデザインの小さな改善など、誰も気づいてくれないような(それでいて重要な)ことにも膨大な労力を裂いてくれる。
また、Googleの人達は、自分たちのサービスを、半ば公共サービスとして捉えている人が多く、そもそも本当の公務員以上に公僕として私欲や企業欲を捨てて、がんばれる人が多いの(Googleの教訓の1つは「Don't be evilーー悪いことはしない(でもビジネスはできる)」であるくらいだ)。
Googleのこの教訓が本気であることは、今回の震災で、信じられるようになった人が大勢いるのではないかと思う。
中にはGoogleの動きの裏を勘ぐったり、陰謀論を唱える人もいるかも知れないが、Googleは今回の震災関係の情報提供で、アカウント登録を求めるようなことも行っていない。
もし、Googleの行動に何かあるとしたら、それは裏でなく、奥の奥のさらに向こう側に、世界の情報インフラになろうという大志があるだけではないかと筆者は信じている(もっとも、そんなグーグルにも下手なところはあるとも筆者は思っているが)。
私が一番、恐れていた安否情報が分裂してしまうことなどについてもちゃんと考えていて、早くにNHKの安否情報と、情報の統合を行った。
現在、この安否情報は携帯電話会社各社の情報とも連携が行われている。
もちろん、これが実現したのはNHKや日本の携帯電話各社の努力もあると思うが、日本の企業の連携努力はものわかれになってしまうことが多い中、Googleのリーダーシップがある程度、こうした連携を進める触媒にもなったんじゃないかと勝手な想像を巡らせている。
悩むセカンド・サイト選び
前段がやや冗長なGoogleの広告のようになってしまったが、それはこれからグローバルで頑張っていく企業にもGoogleがどういう企業かを知ってもらう必要があると思った。
話を、震災直後の私が何を考えていたかにも戻そう。
積極的にGoogleのサービスを紹介していた私だが、Googleがいかに信頼できるといっても、足りないところもあれば、間違いも犯すし、1つの情報源だけに頼るのはよくない、という思いもあった(もっとも、そうして発見した点はどんどん直接、指摘した方が、よい世の中につながる)。
震災に関するすべての情報をGoogleだけに頼るというのも問題があるので、どこか他にも1つか、2つくらいまでなら他のサービスも推薦していいだろうと思っていた。
できれば、Googleとは、別の情報源を持っているサービスで、Googleでは表示されない情報を提供しているところ、そしてGoogleでは助けられない人を助ける術(例えば印刷して配りやすい配慮)を考えている情報を持っているところを優先したいと思っていた。
結局、
や
を紹介したが、publicnozbeは知り合いが大勢関わっていたこともあり、「今はノイズは必要ないので、本当に信頼できる重要な情報を厳選して提供する必要がある」など厳しいことも言ったが、 .@flightsugiyama は「まったくその通りだと思います」と返した後、淡々と情報集めに奔走。
その後、私もFacebookでpublicnozbeに関わっている人達のグループに招待された(私自身は一切、何のヘルプもしていない)。人目に触れないFacebookの非公開グループで、大勢のボランティアが専門家からの裏取りや英訳などに血眼の努力をしている姿を見て、初めてこれは紹介したい、という気持ちになった。今では雑誌などの取材でも、積極的にpublicnozbeの紹介をしている。
もっとも、4月2日にはEarthlingのイベントで .@_NOSIGNER 氏がOLIVEという支援情報のWikiを立ち上げ、これを冊子化し配る準備を進めていると知ったことで、また思いが複雑になり始めている。
多くの情報支援サービスが乱立する中、いずれはそうしたサービスも情報を持続的に提供するのが難しくなってくる。そうなった時に、勇気を持って他のプロジェクトと統合できるサービスこそが本物だと私は考えていた。
最初、Publicnozbeに対して抱いた疑念では、そこもひっかかっていた。Publicnozbeは、その名の通り「Nozbe」というサービスを使うことが前提になった情報支援活動だが、まず最初にシステム・インフラなりがありきだと、それを投げ捨ててまで他と情報統合することが難しくなる。だから、看板が個人や企業や商品名を背負ったサービスはできるだけ紹介を避けるようにしていたのだ。
もっとも、現在は、ちょっと変に小難しい基準をつくり過ぎたかな、と反省している面もある。
特に現在は、被災地での苦難は、まだまだつづいているものの、少なくとも原発問題を除けば最初の数日のように緊急性を要する事態からは脱却しているので、ある程度の乱立はいずれにせよ避けられないし、もう少し紹介するサービスを増やしてもいいかな、と思って、そうし始めている。
情報提供の方法を考える
ちなみに、私が、上記以外で紹介した震災情報サービスは、用途がハッキリし単純でわかりやすいサービス、そしてデーターの本体はTwitterなどに依存し、それを加工して見やすくしたものが多い。
例えばSave Japanなどだ
http://savejapan.simone-inc.com/index.html
データーの分散でもっとも恐れるべきは、大元となるデーターが記録される先であって、表示される先ではない(もっとも、表示先も増えれば増えるほど、どこを見たらいいかわからなくなるので問題だが)。
Save Japanなどは、データーそのものはTwitterのものをそのまま使っているので、せっかくの大事な情報が、どこか見ている人が少ない場所に書き込まれ、憂き目を見ない、という心配が少ない。 ちなみにTwitterを元にした情報提供は、私自身もさせてもらった。
http://nobi.cc/311care というのがそれだ。
何のことはない、Google社のGoogle Realtime検索で「#311care」というハッシュタグを検索しているだけのものだが、実はこれはちゃんと考えがあって、そうしている。 #311careというのは、医療関係の情報を交換するためにつくられたハッシュタグで、場合によっては命に関わる情報を扱うモノだ。
以前にこのブログの別の記事でも書いたように、震災後、被災地外のTwitter初心者の方々が、「よかれ」と思って、重要性の低い情報に被災地のハッシュタグをつけて情報を大量投下し、見えづらくするような歯がゆい事例が散見された。
医療情報を扱う #311care は、そうした事態に陥れてはならない、と思った。
そこで行ったのがGoogle Realtime検索の利用だ。
「こういうハッシュタグがあります #311care」とつぶやきの中にハッシュタグを入れてしまうと、それをクリックした人が、そのままハッシュタグを使って、むやみに重要でない医療情報をつぶやいてしまうことも多い。
とはいえ「311careというハッシュタグ」などと書いたのではハッシュ(#)タグがどういうものかわからない人には使い方がわからない。
そこで考えたのが、#311careをGoogle Realtimeで検索した結果だけを参照させるようにする方法で、この検索結果のページに http://nobi.cc/311care 短縮URLを設定した。
これは工業デザインやユーザーインターフェース・デザインの世界でもよく取るアプローチで、抑制したい行動は、あえて操作にワンクッションを加えて、間違った操作を減らす、という方法の応用と言えよう。
Google Realtimeを通して医療情報を見ることで、医療情報のつぶやきを読むだけの一方通行のコミュニケーションが確立され、あまりハッシュタグでつぶやいた結果が、どうなるかわかっていない人が、不用意につぶやくのを防げたんじゃないかと思う。
この意図を汲み取ってくれたのか、@NHK_PR さんも私のつくった短縮URLをひろげてくれた時はちょっとうれしかった。
次に考えたのが 時間帯によって、いい情報だけれど、すぐには必要ない情報で埋め尽くされた
#save_県名 のハッシュタグをどうするかだ。
ただ、その後、これもGoogle Realtimeを使うことで、解決できることを思いついた。
ノイズと思える情報にどんな特徴があるかを考えたところ炊き出し情報や、ガソリンの配布、店の臨時オープンなど、緊急性を持った情報は大抵、地域特化の情報なのに対して、緊急性を要さない情報(例えば「雨水から飲み水をつくる方法」などのTips)のつぶやきは「 #Save_Miyagi #Save_Iwate #Save_Fukushima 」などのように、つぶやきの中に複数の件宛のハッシュタグが含まれていることが多いことがわかったので、他県のタグが入っているモノは一切表示しないようにGoogle Realtimeの検索条件を調整してみた。
そうしてできあがったのが http://nobi.cc/infoAKITA http://nobi.cc/infoYAMAGATA http://nobi.cc/infoFUKUSHIMA http://nobi.cc/infoIWATE といった短縮URLだ。
'90年代中頃、よく検索の技量を試す「検索の鉄人(達人)」コンテストのようなものが行われたが、実は今こそ、その時の検索技術力が再び役立つようになってきたのかも知れない。
Twitterのノイズは、うまい検索条件をつくることでかなり取り去ることが出来る。
私の失敗
もっとも、かっこつけてもしょうがない。震災後の数日間、私もつぶやいては「あ、これは失敗したかな」、何かやっては「これも失敗だったかな?」と悩まされることばかりだった。
でも、失敗こそ明日への糧だと思うので、いくつか紹介しよう。
まずは、情報提供について。
震災後、もっとも重要だったのがコミュニケーションインフラの確保だ。スマートフォンやパソコンがインターネットにつながっている人もいるが、ほとんどの被災者は一切のコミュニケーション手段を断たれたままだ。そんな時に、NTT広報の人が特設公衆電話の情報を発信し始めた。
見てみると情報は日本語だけで、これだと日本語がわからない人は困ってしまう。
そこで、まずは公衆電話のリストの英語化をしようと思った。しかし、日本語の地名や施設名を、そのままローマ字化して果たしてわかるだろうかという疑問が浮かんだ。
そこで、Google Mapで1つ1つを登録して、地図で提供しようと思った。そうすることで、パソコンやスマートフォンを持っている人は簡単に場所を探せる。
しかし、ここもちょっと間が抜けていた。パソコンやスマートフォンを持っている人なら、既にSkypeやメールなどで必要な連絡は取れているはずだ。
しかし、ともかく英語での情報提供にとらわれていた私は数時間をかけて、リストを地図化した。
その過程で、もしかしたら1つだけ役に立てたかも知れない。小学校の名前が間違っているのを見つけたのだ。どうしても、その名前の小学校が見つからないので、地の利のある人にTwitterで聞いたところ、情報が集まってきて、「間違いであることがわかった」。そこで、これを @NTTpr のTwitterアカウントに聞いた。
「他にも忙しいだろうから、時間が出来たときで大丈夫」と言葉を添えたが、ちゃんと調べてくれて情報の訂正が行われた。
もっとも、地図が完成し、リンクを公開してからもっと大変な問題に気がついた。
まず、施設名を日本語で検索し、そのまま登録してしまったので、どっちにしても漢字が読めないと利用できなくなってしまった(この部分は、地図を誰でも編集可能にしておいたら、 @KATSUHIKO さんという方が、ローマ字を振って下さった。感謝)。
しかし、もっと深刻なのは、とりあえず地図をつくったはいいが、今後、増えるであろう特設公衆電話の位置を、細かくチェックし続けて、地図を更新しつづける自信はないことに気がついたのだ。
その後、sinsai.infoやGoogle Crisis Responseが、この情報を盛り込み始めてくれたので、そこからはそちらのサービスを応援するだけにして、自分がつくった「場」で何かのデーターをつくりこむことは避けるようにした。
やはり、個人や小さなグループで、何か新しいことを始めるよりも、こういうときは、受け手のことも考えて、いくつかの洗練された情報提供先を、さらによくする努力で力をあわせた方がいい。
その後は、では、一体、どこをヘルプしたらいいだろう、と考えるようになったが、実は、これまた意外に難しかった。
もっとも、これについては、さすがに別の記事で書こうと思う。
なんのオチも何もない記事だが、Google Crisis Responseが、ハリケーン・カトリーナやスマトラ沖地震といった災害の経験を積んだことで、どんどんよく進化していったように、インターネットでの情報の扱いに慣れた人達、Twitterやブログで情報収集をする人達も、状況が少し落ち着いてきた、今、改めて自分自身の情報活動を振り返ってみることで、何か次の災害に、備えられる部分があるんじゃないかと思って、記事を書いた。