「080711」ストーリー・プロジェクト
*訂正:世界22カ国→フランスが遅れたので世界21カ国
予想はしていたけれど、
ここ数日、iPhone関係の記事一色の状態だ。
これは日本だけの話しではない。
ぜひパラダイス鎖国にならずに海外の(IT系ではない)一般ニュースサイトも、ぜひ見てみて欲しい。
これは世界的現象なのだ。
ちょっと古い世代の人が、なんだかわからず、思いを一つにしながら、一晩寝れずにいた昔の24時間テレビ現象が、世界21カ国で(そして、おそらく今年後半にiPhone 3Gを迎える70-21=49カ国でも)
同時に起きていた。目的こそ商業的だけれど、規模はLIVE AIDやらLIVE 8以上かもしれない。
この「お祭り」の表参道での様子を見た人は、一生そのことが忘れられなくなるだろう。
あれだけ大勢の人が、携帯電話を買うために列をつくったことは日本ではないはず。
ソフトバンクは、今月も売り上げNo.1は確実だ。
だが、それを統計上の数字で見たり、テレビのCMで聞いたりすることと、
実際に原宿から渋谷までつづく人の列で見せられるのでは、インパクトがぜんぜん違う。
1500人、840メートル(Google Earthで計測)ほどの行列。
数字を見ただけでもスゴイものを感じずにいられないが、
それ以上にスゴイと思うのが、そこに並んでいる一人一人に、
生々しい人間としての存在感があることだ。
3日間限定で生まれ変わった「ソフトバンク表参道」での発表の瞬間を、
私は入り口の真っ正面、最前列で見届けていた。
オープン開始から15分くらい経った頃、ある友人が入店していく姿を見かけた。
彼は今からちょうど10年前、アップルが発売した最初の携帯型端末、Newtonを、
日本に広げようと全力を尽くしていた人物だ。
アップルから子会社として独立したNewton社と組んで、
その素晴らしいデバイスを日本中に広げようと、日本語入力環境を開発し、マニュアルを作成し...
その後、スティーブ・ジョブズがNewton社を潰したことで、
彼が数年の歳月の1日1日の情熱のすべてを注ぎ込んでいた計画ははかなくも夢と消えた。
しばらくアップル関係の一切のことから交流を断っていた彼。
10年後、Newtonと比べるとずいぶんと現実的な機能だが、
10年の月日に加え、「iPhone」がNewtonと同じ夢を、
Newtonとは違った、よりスタイリッシュで洗練された形で
実現していることで再び興味を持ったのか。
彼はいったいどんな気持ちで、あの店に足を踏み入れたのだろう。
午前3時40分頃、私は行列最後尾まで移動し、そこからEye-Fi Explorerを入れたカメラを片手に、
ソフトバンク表参道入り口までを歩いた。
行列の末尾は渋谷の消防署とSHIDAXとの間。
3時20分が運命の分かれ道だった。
ソフトバンクは、1400人(1500人との情報も)並んだのを確認したところで、
「初日販売分は終了」の決断をし、札を立てた。そこから後ろに並んでいた6人は、2日目の販売に向けて徹夜の行列をつくり始めていた(そうだ、今日もあのドラマが繰り返されているのだ)。
10分ほど歩いていくと、drikinらの姿が見えた。
「今回は買いませんよ。iPod touch買っちゃったばかりだし」と言っていたdrikinは、
深夜までのパーティーと2次会の後、「友達が並ぶから、つきあわなきゃならない」を言い訳に列に並んだ。
その12時間後、彼は自分の少し手前で16GB版のiPhoneが売り切れた、という衝撃の事実を知る。
でも、ここから、彼は「(血液型)B型」力を発揮。
Twitterより「drikin そうだ僕は8Gが欲しかったんだ」と思い直している。
drikinのいたところからさらに原宿方面に向かった。
実は行列のどこに陣取ったかで、かなり雰囲気は変わってくる。
代々木第一体育館の前あたりは、街灯がなく、真っ暗なため、
「寝」に入る人が多い。
携帯電話で時間をつぶす人達の液晶の明かりが点々と光っている。
そこからさらに先に行くと、iPhoneのガイドビデオにも登場する某新聞社の名物記者で
世界的VIPを取材したり、ヘリで取材したりと派手に活躍していた人が、
友達と一緒に並んでいた(笑)
さらに進むと、経産省の役人で最近、これからのWebのトレンドを伝える
ベストセラー本を出した人が、息子さんと一緒に並んでいた。
そのさらに先には、「iPhone 応援企画:SBS 表参道でiPhone の行列に0歳児が並んでみたよ ...」で一躍有名になった0歳児のお父さんが。
歩道橋をわたったところには有名なMac私設エバンジェリストのあの方が、テレビチャンピオン文具王や、iPhone用アクセサリーメーカーの方も並んでいた。
2007年6月29日の初代iPhone発売された時、発売と同時にApple Storeで売られていたiPhone用アクセサリーは、わずか20数種類。アップル社から認められたメーカーだけが、製品を置くことを許された。実はその中に1社だけ、日本の会社があり、彼はその会社の中心人物の1人である。
昨年の米国版iPhone発売のときには「その場にいられなかった」が、今回は自ら、その場に足を踏み入れる。
そのさらに先には、カメラと自転車とフットサルが好きな友人の一団が陣取っていた。
アウトドア派の彼らは用意も周到。
「たまにこういうのも楽しいよ」と言いながら、
「行列の中の人、ときどきプレス」という立場を楽しんでいた。
行列の先頭の方には、iPhoneの発売と同時に
App Store経由で世界進出をもくろんでいた、あの人もいた。
彼は7.11の私に一番力をくれた一人でもある(後述、次の記事にするかも)
直前のいろいろなトラブルでオープン同日は無理だったが、
彼の会社がつくるソフトは、常に他とはひと味違うおもしろさがある。
行列の先頭は、あのあまりにも有名になった名古屋の大学院生、佐野博之さん。
最前列の3、4人と、たまたまその前を通り過ぎ彼らの写真を撮っていたアメリカ人で
夜中の2時に、iPhoneの魅力やアップルのものづくり、その経済効果なんかについて語り合った。
この佐野さんと、彼を取材しようとするプレスの間には、
さらにドラマがある。
大々的なカウントダウンのイベントの後、iPhone購入者第1号が店から出てきて
孫さんと握手をし、軽いインタビューを受け、何十というマスコミのカメラで撮影される予定だった。
ところが、佐野さんが、契約に時間がかかっていたため、順番が入れ替わってしまった。
店内でしばらく大騒動があった後、佐野さんの許可を得て、
4番目だったiPongの作者の近藤誠さんが
「先頭の人に悪い」と遠慮しながらも、早くプレスを解散させなければならないという
プレッシャーに押されつつ「iPhone購入第1号」の栄誉を得て、
孫さんとの握手と、大量のフラッシュを浴びた。
もう警察も呼ばれていた。
集まった想定数をはるかに上回るプレスを早く解散させないと、
1km弱1500人の行列そのものが「解散」させられる危険があった。
このためソフトバンクの広報は、とにかく苦情がでないように
少しでも早くプレスを解散させようとしていた。
しかし、それにも関わらず多くのプレスが佐野さんをあきらめなかった。
佐野さんが店をでてくると、その後ろには、まるで大名行列のように、
数十人のプレスが後を追いかけた。
そしてソフトバンクの店舗の裏で、彼の撮影と短い取材を行っていた。
このバカ騒ぎの横を「おかしいよね?」、「ただの携帯だよ」、「今日は平日なのに」と
冷たい視線を送りながら、通り過ぎていく人も何人も見かけた。
もちろん、そうやって昨日と同じ毎日をこなすことの方が、99%の常識で正しいけれど、
他の人とは違った考えを持つ1%の人々は、この日、一生忘れられない体験をしたんじゃないかと思う。
同じ体験を共有した戦友をつくった人も大勢いるし、
たっぷりの時間を使って、夜空の下、これからの自分やiPhoneで広がる夢をたっぷり考えた人も
大勢いたはずだ。
私が全然知らないドラマもたくさんあったはずだ。
私はといえば、別のエントリーでも書くが、
神田さんのイベントで話した後、
ゲストの都合でどうしてもこの日でないと開催できないイベントを仕切って、
プロジェクターと重さ7Kg近くはあるバッグを持ちながら原宿と渋谷と
そして代々木上原の往復を繰り返していた。
徹夜の取材があけた後、
一昨日、私にここ数年で最大のショックを与えていた方々と会うことになり、
shi3zさん(あ、言っちゃった)と話して一時は元気になっていたところが、
正直、再び、ちょっとトゲトゲした気持ちと落ち込んだ気分に陥れられた。
疲れきって、有楽町の取材もあきらめた。
下を向いて副都心線に乗ろうとしたその時、
ナタリーの方々がゴミ拾いしている現場に出会った。
彼女らと旧知の友人とで、談笑をしているうちに、また少し元気が蘇ってきた。
(そういえば、誰もiPhone 3G用のQRコード解析アプリケーションはつくっていないんだろうか?300円までなら買います!)
人間って、こうした「生の存在感」や「他の人との関わり」こそが一番おもしろい。
7月11日、行列に並んだ一人一人の体験談やストーリーは、
いろいろなブログで読むことができるが、なんとかこれを
ポール・オースターの「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」のような本にまとめることはできないだろうか。
そうだ、私のストーリーは、別立ての記事ではなく、ここのコメント欄に書き込もう。
ブログで自分のストーリーを書いた人は、トラックバック下さい。
あるいは「はてなブックマーク」や「del.icio.us」で「080711story」というタグをつけましょう!
ナショナル・ストーリー・プロジェクト | |
ポール・オースター 柴田 元幸 新潮社 2005-06-29 売り上げランキング : 48136 おすすめ平均 朗読もある 「アメリカ」が語るノンフィクション・ストーリーにして、「アメリカの一庶民」が語るノンフィクション短編集 面白かったり、そうでもなかったり・・・ Amazonで詳しく見る by G-Tools |
nobi評:もの凄く分厚いですが、目についたエピソードを拾い読みして楽しめる一冊。
奇跡というものが、世界中で毎日のように起きているんだ、ということが実感できる一冊。
そして、これも小さな奇跡か、日本語版発売日が、アメリカのiPhoneの発売日と一緒(2年前だけど)