「HTML 5 > Web 2.0」の声かけ確認でITガラパゴス化を防ごう!
まだまだWWDCレポート記事を書かなければならない立場ながら、
今、この心の高ぶりを逃すと、このままチャンスを逃してしまいそうだ。
運よく、私をインタビューするはずだった担当者2名からの連絡もないし、
次の記事について相談しようとした編集者がつかまらないので、
20分1本勝負、校正無しで一気にブログを書きあげよう。
私はYouTubeで見たGoogle IOからも、仕事の合間にちょっとだけ覗いてきたWWDCの会場からも、
先日、足を運び、まだ記事化できていないMozillaの次期Firefoxについてのインタビューからも、
まったく同じ5文字のシグナルを受けとった。
「HTML5」
このシグナルを受信すると、
実は4.0=3.5=3.0 = 5という不可解な数式が成り立ってくる。
つまり
(Safari) 4.0=HTML 5
(FireFox) 3.5= HTML5
(iPhone) 3.0=HTML5
(Google Chrome) 3.0=HTML5
ということだ。
Web 2.0は、その時点で起きていた、インターネット関連のさまざまな新トレンドを、ゆるやかにひとくくりにして、名付けたものだが、
これに対してHTML 5は、
ITの世界を本気で変えようと、多くの企業や人々が集まって巻き起こしている革命だ。
前のエントリーに関して、tokurikiさんが「日本のウェブは急速に進みすぎた」という仮説を書いているが、これはその通りだと思う。
ただ、進んでいても、それを自国内だけに留めて、世界スタンダードに広げようと言う努力が伴わないと、結局、いつかはおいしいところを海外企業に持っていかれてしまう気がして心配だ。
急速に進んだといえば、携帯電話も、ハイビジョンテレビも、そうだった。
今から6〜7年前までは、International CES(家電ショー)にいくと、
常にもっとも先進的な携帯電話は日本製だったイメージがある。
テレビにしてもそうで、その機能でも質でも、圧倒的な差をつけていた。
しかし、数年前から、日本の携帯メーカーは次々と海外市場から撤退を始め、
それに替わって韓国のメーカーらが、台頭を初めて来た。
まったく同じタイミングで、テレビの方でも同様の現象が起きている。
携帯電話の世界では、日本に世界標準のGSMという通信方式がなかったことと、
期待の星だった3Gネットワークが、日本の外でなかなか広がらなかったという背景があった。
同様にテレビもB-CASカードなども含め日本特殊の事情があった。
結局、日本というそこそこ大きい市場と、海外という大きいけれどチャレンジも大きい市場を天秤にかけた結果、日本のメーカーは、ぬるま湯の方を選んでしまったわけだ。
でも、ぬるま湯に浸かっていて気持ちいいのはしばらくの間だけ。
iPhoneショック1.0でも書いたが、気が付けば韓国のメーカーは世界で勝負し、
日本よりもはるかに大きな規模の携帯ビジネスをするようになり、
日本の携帯メーカーを追い抜いてしまった。
これについてはiPhoneの衝撃(aka iPhoneショック1.0)の記事も見て欲しい:
iPhoneが携帯電話機メーカーの収益モデルを変える
きっと、これと同じようなことは携帯、テレビ以外でも、あらゆる業界で起きているはずだ。
日本の技術者や日本の(工業、インタラクション)デザイナー、そして(伊藤穣一さん曰く)消費者は世界に誇れる逸材揃いだと思う。
彼らの仕事は、たしかにすごいし、作品も凄い。
だからこそ、海外では使えないにも関わらず、日本の携帯電話を知りたいと、
イギリスのテレビ局も私のところに取材にくれば、GizmodoやEngadgetといったサイトも
積極的に、日本でしか使えない携帯電話を、海外向けに紹介している。
ただ、残念なのは、こうしたすごい技術者やデザイナーを擁する日本企業の経営者(や、もしかしたら経営層以上に中間層)が、そして彼らのことを報道するメディアの目が、あまりに内向きになってしまっていること。
iモードだって、せっかく素晴らしいものを発明したのだし、もっと積極的に世界に売り出せばよかった。一度、失敗しても、そこであきらめず、手を変え品を変え、パートナーを組み、メーカーに話し、キャリアに話し、ITベンチャーに話をし、しつこく成功するまで説得すべきだった。
しかし、iモードは世界にチャレンジしたものの、世界普及をあきらめ、日本の携帯のガラパゴス化の発端をつくってしまった(この当りの事情は、私はそれほど詳しく追っていないので、多少、無責任に書く。当時の担当者の方々はそれなりに、いろいろ努力して板であろうことは察する)。
もっとも、世の中のコンテクストは常に変わっている。
今は気が付けば、携帯電話の3Gネットワークも、世界81カ国展開をするiPhoneと一緒に世界に広がりつつあるし(まだGSMでiPhoneを使っている国も多いが、プレッシャーは感じていることだろう)、実はよく考えてみると、3Gでは実績の日本メーカーが再び海外に飛び出すチャンスでもあるはずだ。
ちょっと話しがずれたが(そして時間も40分経ってしまったが)、
これに対して、アメリカの企業がどういうアプローチをとっているかを見てみよう。
今日、この記事を書きたくなった一番のきっかけは、drikinに聞いた話。
HTML5の多々ある目玉機能の1つにローカルストレージ、つまりインターネット接続がない場所で、Webアプリケーションを利用する技術がある。
Googleは、元々、Google Gearsという、ローカルストレージの技術をつくっていたのだが、先日のGoogle IOで、手のひらを返したように、これを捨てHTML5のローカルストレージを採用した。
どうも、その裏話を聞くと、元々HTML5の予定だったが、HTML5規格の中でもローカルストレージは、サポートしようとする人々が少なかったこともあったので、まずはGoogle GearsというGoogleローカルの方式で、実績をつくり、人々がそれに飛びつくのをみせた上で、他の企業に、HTML5でのローカルストレージ採用を呼びかけたのだという。
そう、最近のシリコンバレーの企業は、何か素晴らしい技術や革新を生み出したとき、
技術そのものの開発にも力を入れるが、それ以上に、その技術が、いかにして世界に根を貼るかという部分にも、ものすごく力を入れている。
実はこれと同じ風景は2年前に参加したFooCampでも見た。
大勢のSNS開発者達が集まって、いかにしてSNS間の連携のためのスタンダードをつくっていくかを真剣に話し合っていたのだ(GoogleのOpenSocialよりも前の話しであり、おそらくあの話しが元になってOpenSocialにつながっていったんじゃないかと思う。OpenSocialが発表されたのは、このFooCampの約半年後だった)。
Foo Camp—GoogleやWikipedia創業者も参加するオライリー主催プライベートイベントの全貌【前編】 | All-in-One INTERNET magazine 2.0
Foo Camp—GoogleやWikipedia創業者も参加するオライリー主催プライベートイベントの全貌【中編】 | All-in-One INTERNET magazine 2.0
Foo Camp—GoogleやWikipedia創業者も参加するオライリー主催プライベートイベントの全貌【後編】 | All-in-One INTERNET magazine 2.0
HTML5の話しに戻すと、
GoogleはGoogle IOの初日の基調講演で、HTML5のあらゆる可能性を見せた上で、Google WaveというHTML5のキラーアプリも用意した。
アップルはiPhoneという世界でおそらくもっとも売れ、もっとも影響力の強い携帯電話端末で、まもなくこのHTML5を標準採用し、いきなり手のひらの中にHTML5革命を持ち込むことになる。
Google Androidは、世界中の多くのメーカーにiPhoneの対抗馬を安価に開発できるようにする技術であり、やはり手の中のHTML5革命を広げる担い手である。
その一方でデスクトップでも、Safari 4.0とFireFox 3.5、Google Chrome 3.0の3大ブラウザー(そして一部OPERA 5.0とIE 8.0)がHTML5革命を広げるように努力している。
もはや、長い間、パソコンを支配してきたOS+アプリケーションのパラダイムを打ち崩す包囲網を、ゆっくりと築きつつあるのだ。
もちろん、既に全員が使い始めている技術ではなく、
まだまだこれからジワジワと広がっていく半歩先の未来であり、
それを採用することには多少なりのリスクは伴うことになるが、
ぜひ、日本のIT業界がガラパゴス化しないためにも、
まずは、まわりのWeb開発者に「HTML5のためにどんな準備をしているか」と
声かけ点検をひろげていければと思う。
そして、日本のメーカーの方々には、
ぜひ、アメリカのIT企業が、数々の技術の普及のために、いかにうまく根回しをしてきたかに学んで欲しい、と思う。
結局、1時間ブログに費やしてしまったので、本当に校正はしないことにする。
P.S.そうそう、今日、私の新刊が発売になったようだ。友人がTwitterで教えてくれた。
あまり自分の本を宣伝するのは得意ではないが、担当してくれた編集者の方のためにも、ちょっとだけ宣伝しておこう。
こちらの本で、スティーブ・ジョブズの言葉を酒の肴に、日本企業がどう代わっていったらいいか、いろいろ考察を述べたものだ。
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