記者発表会 2.0
IT系企業はCEATECとWPC Expoという2大イベントの間を縫うようにして、
デザイン系はTokyo Designers WeekやDesign Tide開催直前の記事に間に合うように、
映画系は東京国際映画祭開催直前のサプライズとして、
とにかく多数の記者発表会/会見/説明会が行われる。
しかも、そのほとんどが明日と明後日に集中している。
できれば、すべてに足を運びたいが、残念ながら身は一つだ。
早退と遅刻でやりくりしても1日に出られる記者発表会/説明会は3つ+夜のパーティー1つが限界だろう。
私も「行けます。楽しみにしています」と言っていたものも含めて、
かなり多くの説明会への参加を辞退しなければならない状況に追い込まれている。
大手メディアなら手が届かない発表会外注のライターに頼んで、一応、まんべんなくカバーできると思うかもしれない。しかし、1人で仕事をしているフリーランスは、どれか1つを選ばなければならない(でも、こういうフリーランスこそが、1度、取材した内容を1つの媒体に絞らず、機会があるごとにちょっとづついろいろな媒体で降れてくれて、長期的に見れば大きなリーチにつながるはずだ)。
まったく困る限りの状況だが、1年の間に何度か、このように記者発表会/説明会が集中する時期がある。
より多くの記者に取材してもらうために、広報会社は「早めに案内を出す」以外の工夫もしなければならない。
記者は早めに案内をもらったからといって、1度、出席を通知したからといって、本当にその記者発表会に行くとは限らない。早めに案内をもらえるのはうれしいにはうれしいが、今日の標準だと、だいたい予定が本格的に埋まり始めるのは、取材日の5日前くらいからだ(大手電話会社など必ず取材が見込める会社は、当日の朝に案内をだして夕方開催というパターンもあり得る)。
取材する記者の方は、いつ案内をもらったかや、「既に出席すると約束した」か否かではなく、記事としてのニュースバリュー、つまりより多くの読者が見込めるか否かや広告バリュー、その記事を載せることが広告につながるか否かで、取材先を選ぶ。
直前になって大きな会社の発表会があれば、親しい会社からのフレンドリーな案内を振り切って、
そちらに足を運ばざるを得ないこともある。
では、より多くの記者に取材してもらい、記事を書いてもらうには、どうすればいいのか?
何よりも大事なのは、「記者発表会ラッシュの時期を外すこと」だろう。
記者発表会ラッシュの時期は、大きなイベントの前週や会期中など。
1年を通して、ニュース系サイトの記事などを読んでチェックしていれば、どの時期に集中しているかわかるはず。
仲のいい記者に、取材スケジュールの疎密を聞いてもいいかもしれない。
ラッシュ時に記者会見を開いて、万が一、大勢の人に取材してもらい、それが記事になったとしても、
その記事は「今日、たくさんあった発表の中の1つ」という形で、記事が掲載されてからのインパクトも薄れてしまう。
おまけにラッシュ時期なら翌日もたくさんの発表会がある可能性があるので、せっかく記事にしてもらっても、そのページはすぐに翌日行われる多数の発表によって、ニュースサイトのトップページから追い出されてしまう。
会場の場所取りから、何からめちゃくちゃ苦労する割には、returnは少ないのだ。
もちろん、発表する新製品は、ビッグイベントと同時に一般へのお披露目、というパターンも多いので、時期が重なるのはわからないでもない。ただ、もし、あなたがその会社自身の人間なら、戦略として早めに概略の発表だけを行っておき、イベントまでの機関をティーザー的に使う、という戦略も一考していいと思う。
概略のみの説明会でプレスを呼ぶと、「詳細をぼかしている」とか「逃げている」といった悪評がつくかもしれない。それを避けるのであれば、ティーザー広告だけ出して、盛り上げておいて、イベント会期中の記者会見で勝負、というのもあるかもしれない。あるいは後述する時差作戦もあるかもしれない。
もし、あなたが外部の広報会社で、製品の戦略の部分にまで深く関われない場合には、時差を使う作戦もあるかもしれない。
もっとも、最近では実践している会社が少ないので、どの程度、効果があるかは保証の限りではないが。
ほとんどの記者発表会は、午前10時、午後1時、午後3時くらいの時間帯に集中しており、ラッシュ時期のこの時間帯を選ぶのは、暗い洞穴の中に隠れている巨大怪物に勝負を挑むようなもので、懸命ではない。
それよりは他の記者発表会と重ならない時間帯を選んだ方が、チャンスは大きい。
'90年代前半は、これを実践しているところが多かった。
夕食の出る懇親会付きの記者発表会やらパーティー形式の発表会が、よく行われていた。
果たして、これが今でも最良の方法かどうかはわからないが、やりようは他にもある。
他の発表会に行った人々が、その帰り道に、ちょこっとよれる記者発表会とか、夕食前に軽く取材できる記者発表会などだ。
前者の場合には、交通の便がキーポイントに、後者についてはまわりに軽く夕食をとれる場所がたくさんある場所が重要になると思う。
もっと、進んだ記者発表会2.0と言えそうなのが、Webを使ったストリーミング形式の記者発表会。
以前、フランスのevolisという会社が、これを実践していたけれど、これはなかなかおもしろいと思った。
nobilog2がオープンする前のブログ、nobilog1で、記事にしていた。
同社はヨーロッパ、米国、アジアのそれぞれの時間帯にあわせてWeb上で3回記者発表会を開催。
まずは重役から製品の概要説明があって、スライドプレゼンテーションが表示される。
細かなデモなどはなかったが、そのあと、質疑応答に入り、チャットで質問を書くと、
重役がその質問を読み上げて、答えてくれる。
これ、その後、あまり行われていないところを見ると、何か問題があるのだろうか。
日本で1つ問題になるとしたら、日本の媒体は、記者発表会の模様の写真を載せたがる傾向が強いこと。
ストリーミングの画面キャプチャーでは画質も悪い上に、他の媒体と同じ写真になりかねない。
このあたりは発表会中の模様を、むこうが用意したカメラマンにいろいろと違うアングルから撮ってもらって、それをダウンロード、といった形で解決できるような気がするのだけれど。
他に考えつく方法は、
- もし、発表内容に自信があるなら、前もって発表内容の概略を、発表会の朝など、あまり深い記事が書けないタイミングに、Podcastみたいな形で流して、本人の予定を変えさせて、自分の発表会のへの流れを作る(「朝、起きたらWebでもすごい話題になっているし、これはこっちの発表会にいくしかないかも」と思わせる戦略)。
- あるいは「抱き合わせ発表会」ーー競合関係がそれほどない、中小の会社で、同じ場所を使って連続して発表会を行って、トータルでの取材価値を高くする方法(この場所にずっといれば3件取材したことになる、と思わせる方法だ)。
もちろん、ここにあげたのは、私がこの記事を書き始めてから数十分の間に思いついた方法に過ぎない。
答えはもっと別なところにあるのかもしれない。
ただ、来年になっても、再来年になっても、今と同じ状況がつづくと広報会社の側も、取材する側もつらいだけなので、なんとか、ここで問題提起して、皆さんにじっくり考えてもらえればと思った。