初めて車にはねられる
横道から横断歩道中程まで勢いよく飛び出してくる、ちょっと危なげなタクシー。
でも、こちらの存在に気がついて、一旦停車してくれたので、「それじゃあ」と横断歩道を渡ろうとすると、2秒遅れくらいのタイミングでタクシーが突然、発車した。
「え!?」
と思ったのも束の間、自転車は横転して、自分の頭は車がビュンビュン走っている目黒通り上へ。
「今、前から車が来たらマズイ」と、その瞬間はかなり焦った。
運良く前から来た2台の車は私を避けるように中央レーンに移動し、事なきを得た。
起き上がると、立ち話をしていた女性2人がこちらに何か語りかけている。
「病院行った方がいいわよ。今は大丈夫でも、後からっていうこともあるから。」
まったく、その通りだ。おそらく私が目撃者でも、同じアドバイスをしたと思う。
スノーボードで横転して、元気だったのに夜になって突然...という話も良く聞くし、
とりあえず精密検査は受けた方がいい。
でも、あいにく、私は模範的な被害者にはなれなかった。
女性2人に「恐れ入ります。ありがとうございます」とお礼を言った次の瞬間には、頭に今日の「To Doリスト」が浮かんでいた。病院に行ったら、いくつかの予定は確実に週明けまで先延ばしになってしまうが、ちょっとそういうわけにはいかない。
運良く停車していた車が、私にぶつかるまでの走行距離はせいぜい1メートル程度。
加速もそんなにないはずだし、左肘を地面に打っただけで、とりあえず外傷はないので、できれば、このまま打ち合わせに向かいたい...
そこまで考えた時、ふと、タクシーの存在を思い出した。
「そっか、タクシーの運転手とも話をしないわけにはいかないよなぁ。」
目の前のタクシーを見ると、運転手はまだ運転席に座っている。
しばらく、彼の方を見ていると、ようやくドアを開けて外に出てきた。ちょっと年配のおじいさんだ
(実際はまだ60代前半だったが、それより10歳は老けて見えた)。
とりあえず、相手の免許をデジカメで撮らせてもらい、車のナンバープレートをデジカメで撮らしてもらい。
「それでは、今はちょっと打ち合わせで急いでいるので、また後で連絡します」と言ったものの、さすがにそういうわけにはいかなかったらしい。
先方が切り出す「後から何かいろいろ言われても困るので、とりあえず警察を呼んだ方がいいでしょう。」
打ち合わせ相手に事情を話し、「遅れます」の伝言。
家に電話をし、その後、久々に110番に電話をした。
実は、この時、自分がすごいショック状態にあることに気がついた。ふらふらしてまっすぐ立っていられないし、なんだか落ち着かない。事故現場の住所とかを、調べ歩いて警察に伝える気力は残っていなかった。
「ここからはお願いします」と携帯電話をタクシーの運転手に差し出し、後を託した。
10分くらいしてから警察が来て、事情聴取が始まった。
「どうしますか?救急車を呼びますか?」
「今は急ぎの打ち合わせがあるので、後で落ち着いてから病院にいって連絡するわけにはいきませんか?」と尋ねた。担当の若い警察官がしばらく無線で問い合わせ、こう答えてきた。
「今の体の状態に対してなら責任を持ってもらうことができるけれど、後から病院に行ったのではそれができない。つまり、人身事故扱いではなく、物損事故扱いになる」
ものすごく理屈にかなっていたので、思わず「なるほど」と相づちを打って、
もう1度、「ちょっと家族とかに相談したいので時間をください」と言って、家に電話をし、頭の中で「To Do」リストを反芻した。
それから病院に行ったら行われるであろう精密検査と、それにかかる時間をシミュレートし、「仕事の遅れで来週がどれくらい大変になるか」を思い浮かべて結論を出した。
「とりあえず、もし身体に異常があれば自分の保険なりでカバーするので、今は打ち合わせに向かわせてもらいます」。
調書の端に「私は本件を人身事故扱いにはしません」と書きサインをさせられて、次は自転車の破損状況の調査が始まった。
なんだか、そんなことをしているうちにタクシーの運転手のことが心配になってきた。
交通安全を連想させる会社名やフロントガラスに貼られた「優良ドライバー」のシールが今はむなしい
(彼がこのシールを貼るのも今日が最後かもしれない)。
調書で連絡先を聞いている時、「自宅の電話番号は?」の問いに「ありません」
「じゃあ、携帯電話は?」にも「ありません」
「じゃあ、どうやって連絡すればいいの?」の問いには「会社に電話してください」
デジカメで撮らせてもらった免許証をよく見ると、住所に続いて「〜〜〜方(かた)」と書いてある。
よほどの事情がありそうで、私のせいでこの人が職を失ったらどうしようとちょっと心配になってきた
(でも、反応は鈍くなっているんだし、そろそろ運転はやめた方がいいかもとも思う)。
調書もすべて取り終わって警察も片付けモードになっていると、
横から運転手が言ってくる「とはいえ、診察代くらいは、私の方で出すようにしますんで」
最初は、私に対して一言も謝ってくれない事に、内心腹が立っていた。
でも、よくよく話をすると、なかなか親切なおじさんだ。
それによく考えてみたら、相手もどういう人間かわからない段階で、下手に謝るのは得策ではない。私が加害者でも、まずは様子を見たかもしれない。
「診察台はいいです。それより、なんだかつけ入るようで、申し上げにくいんですが、、打ち合わせ場所まで送ってもらえませんか?(それも今、持ち合わせがないので無料で)」と頼んでみた。
でも、よく考えると車の向き的にも歩いた方が速そう...結局、歩いていくことに...
歩きながら、心臓がバクバクいっていて、フラフラしているのに気がついた。
たぶん、まだショック状態なんだと思う。いわゆる(軽度の)PTSD?
「ブログネタにしちゃえ!」と強がってはいるが、実は今もやたらと喉が渇いて、一点に集中できない。
打ち合わせの間も、ずっと「心ここにあらず」状態だった。
なんだか、今も「すぐに仕事に取りかかれる気分じゃない」
こんなことなら、やっぱり病院へいったことにした方がよかったのか?
でも、実際の身体的損傷は「軽く転んだ」程度のはず。
首が右にまわらないけれど、これはおそらく寝違えのせいだし...
もう1度、今度は右肩から倒れたら治りそうな気もしている(笑)
とはいえ、集中力はかなり欠如中。
今晩までといっていた仕事は、軒並み明日までに延期させてください...
P.S.
1時間以上遅れて、目的のカフェに辿り着いた時、さらにパニックする事態が待ち構えていた。
カフェの目の前に、見覚えのある巨大な男性がいたのだ。
「もしかして?」と思ってよく見たら、今日の朝のInterFMのラジオ番組で一緒のDJ、KCが座っていた。
おもしろいもので、事故の時にはまわらなかった走馬灯が、このタイミングで駆け巡った。
・カフェの中には1時間以上待たせている打ち合わせの相手がいるから急がなければならない
・でも、KCともちょっと話がしたい
・あ、子供と一緒だ。子供のこともいろいろと聞きたい。
・今、あった事故の事は話すべきか(話したいけれど、話しだすと長くなりそうだ)
結局、KCとは何を話したかあまり覚えていないけれど、実はご近所だという事が判明してちょっとうれしかった...
なんだか、まとまらない話になったけれど、mixi仲間のコーイチさんを含め、自転車好きの方々!
注意しようがないけれど、注意しましょう。