ジャック・バウアーのオフィスに行ってきました
今年は、いきなりドラマ「24」と携帯電話ビジネスとiPodに関連した話題からお送りします。
ドラマ「24」は今年も全世界的に大きな話題を呼びそうです。
米国では、再来週から、この人気ドラマの第5シーズンの放映が始まります。
私は放映に先駆けて、アップル社からも関連した発表があるのではないかとひそかに期待しています。
来週開催のMACWORLD EXPO/SAN FRANCISCOというイベントで、アップルが米国のテレビ会社「FOX」と提携するんじゃないかと...
今回はインテルCPU搭載Macが出るんじゃないかと注目が集まっており、他に新しいiPodなどの噂もありかなりもりあがっています。
私はそれらの発表に加え、さらにアップルが「FOX」と提携して、「24」のシーズン5をiTunes Music Storeで発売するんじゃないかと思っています。
これが実現すれば、「24」の放送を見逃しても、翌日になればわずか1ドル99セントで、前日の放送をiTunesでダウンロード購入し、自宅のパソコンやビデオiPodの画面で楽しめるようになる、ということですーーかなり画期的でしょう!(米国在住者に限る)。
iTunes Music StoreでのTVドラマの販売は、既にかなり成功しているようで、次々といろいろな会社がアップルに声をかけてきていると聞いています。実は、その噂の中で、FOX社の名前も何度も登場しているのです。なので、上のような発表があっても何ら不思議ではありません。
さて、今日からInternational CESとMACWORLD EXPOの取材でアメリカ入りしています。
今日はロサンジェルスに一泊して、私が一番注目している会社を訪問してきました。
(まだ、取材内容をどこの媒体に書くかは決まっていません。何通りの切り口もできる会社なので、興味のある媒体はぜひ声をかけてください)。
実はこの会社には、ドラマ「24」の主人公、ジャック・バウアーが(第1シーズン)使っていたオフィスがあります(今は普通に会議室として使われています)。
Amp'd Mobileで、世界一クールな携帯電話を提供しています。
世界的に人気のドラマのセットを、そのままオフィスに使っているなんて一体どんな会社か気になる人もいるでしょうが、このAmp'd Mobileという会社の事業は、もしかしたらドラマ「24」そのものよりもおもしろいかもしれません。
Amp'd Mobileは、簡単に言えば「携帯電話の会社」。
携帯電話の基本設計やサービス提供などを行っています。
もうちょっと難しい言い方で説明するとMVNO事業者ーーこの「MVNO」、今年は日本でも注目が集まるキーワードなので、知らない人は、ぜひこの機会に調べてみてください。
日本ではMVNOで成功しているのは英バージン社の「Virgin Mobileくらい」などと報じられています。しかし、もう1つNEXTELという会社のネットワークを使ったBoost Mobileという事業もそれなりに成功しています。
Amp'd Mobileは、このBoostをやっていたカリスマ経営者らが「中途半端なことをやっていたらいけない」と一念発起して始めた「メチャクチャとんがっている」会社です。
携帯電話のデザインは、こんな感じ:
(Webページより)
(実物)
Amp'd Mobileは携帯電話とはいっても、通話よりむしろ映像や音楽コンテンツを楽しむための端末としてデザインされています。
そういう意味では、むしろ「ビデオiPod」に近い存在といえるかもしれません。
「iTunes Music Storeとインターネット高速接続内蔵のiPod」なんていう例え方もできるでしょう
(通信方式はEV-DOなので日本のCDMA 1x WIN相当で高速です)
画面こそビデオiPodと比べて小さめですが、高速接続のおかげで、ビデオiPodではみれないライブ放送(ストリーミング放送)も観れてしまいます。
そういう意味ではAmp'd Mobileは、iPodの強力なライバルともいえるかもしれません。
ビデオiPodには、まだそれなりのアドバンテージがあると思いますが、Amp'dを見た後では、「いわゆる他社のiPodの競合製品」は少しかすんでみえてしまいます。
見た目のデザインがかっこいい携帯電話は日本にもいくつかあります。
でも、デザインされているのは、せいぜい外装とメニュー画面、着信音くらいまででしょう。コンテンツを見ているうちにボロが出て、ちょっとシラケてしまうことも多いはずです。
これに対して、Amp'd Mobileは、すべてのユーザー体験を徹底してクールに演出しきっています。
携帯電話を手にしたとたん、その手からAmp'd Worldなる世界が広がり始めて、その世界の文化を反映した映像や音楽を、その世界の流儀で楽しめるーーとこんな感じでしょうか。
携帯電話そのものの外観もクールなら、秀逸なインターフェースもクール(Webページで動きを確認してみてください。このMac OS Xみたいな画面が、携帯電話で本当に動くんです!)。
さらに配信するコンテンツもクールなものだけに限定しています。
クールでないコンテンツ、Amp'dの世界観にあわないコンテンツは、コンテンツ提供社がどんなにお願いしても、お断りしているそうです。
それでもMTV(出資社の1つ)をはじめとするさまざまなコンテンツ提供社が、次々とExclusiveのコンテンツの提供もはじめています。
社内にはオリジナル番組を制作し、ライブ配信するためのスタジオも製作中です。
Amp'd Mobileのサービスは、まだ12月にスタートしたばかり。しかも、インターネットのみで端末を販売しているテスト的段階です。
実はこのサービス・インに先駆けて米国で放送されたティーザー広告も、かなりエッジな内容でした:
ホテルのベッドの上で死にかけている老人とその上にまたがる半裸の女性。どうみても情事の風景。
女性が「議員!議員!死なないで!死なないで!」と叫んでいる。すると、そこに「Amp'd Mobileがまもなく始まるから死なないで」というコピーが現れるというもの。
Amp'd Mobileは、ターゲットがすごくはっきりしていて、「R25」のすぐ下の世代、18-25歳代。
スポーツ系コンテンツも充実していますが、この層にあわせて格闘技やモトクロスなどを扱っています。
さらにMTV系のとんがっているアニメや音楽ビデオなど。
ちょっとでも、ダサ系のコンテンツは対象から外れるようです。
ターゲットに対して、携帯電話のハードから、ユーザー体験(基本ソフト)そして映像/音楽コンテンツすべて一貫した「Amp'd World」(林の造語)を提供するーーなんともおもしろいビジネスでしょう。
種類は違いますが、「世界観のつくりこみ」の徹底ぶりはPixar社にも通じるものがあると思います。
私はこれまでにもジョン・ラセター氏をはじめ、ピクサー社の重役何人かインタビューしてきましたが、彼らに共通してすごいのが、1つの世界観を「あたかもそういう世界が本当にあるように」細部まで徹底的にこだわってつくりこんでいることです。
アップルもしかり、ピクサーもしかり、成功している会社や製品というのは、その裏にしっかりとした世界観なり価値観があってブレない。 細部のどんな細かな特徴までもその世界観にぴったりとフィットしているような気がします(そういう意味では「R25」もちょっと違いますが、「R25ワールド」をつくっている気がします)。
2006年は「黒」が流行すると、どこかでききました。
ファッションの世界もそうですが、黒光りする携帯型ガジェットにも注目株が多いですよね。
黒い「ビデオiPod」しかり、黒い「PSP」しかり、
私はこれらに加え、黒い携帯電話、「Amp'd Mobile」にも注目していこうと思います。
「アメリカは、ベンチャーの国、おもしろいことをやる会社が次々と出てくるね」なんて遠い目で見ないでください。
実は同社重役のオフィスで、チラっとこんなものを見せてもらいました。
「既にAmp'd International(部門)」もあるよ、とのこと。 日本も視野に入っているようです。
もはやビデオiPodやビデオPodcastの「抵抗勢力」なんかやっている時代じゃありません。
そんなことをやっていても、時代の波にどんどん逆流しちゃうだけ。
日本の企業にも、ぜひこういった新しい波を起こすか、「ここにはかなわない」と思ったら、あきらめよくその会社の波にのって欲しいところ。
今年もなかなか楽しい1年になりそうです。
BGM: "la maison" by Gabin
P.S.今から5時間後には起きて、International CESが開催されるラスベガスに行ってきます。
ロサンジェルス滞在は20時間未満、Amp'd Mobile訪問だけが目的(*)でしたが、なかなか実りがある取材でしたーーまだまだ、ここには書いていないおもしろい話もいっぱい聞けましたし、カリスマ創業者が2人揃っているところも運良く写真に撮らせてもらいました(が、ISO感度800になっていてザラツキがでてしまっていたのが残念)。
*)本当はもっといろいろやりたかったんですが、眠さに負けました。