イノベーションの葛藤
Google ストリートマップ日本版が始まって、一番おもしろかったのは、見た人の感想が真っ二つに分かれたことだ。
おそらく、私のような熱烈歓迎の人も大勢いる一方で、やや無関心気味な人はどちらかといえば「おもしろそう」という感想。
その一方で「およそ受け入れがたい」という感想をもらす人、Googleに対して苦情を言うかもしれない(し、言わないかもしれない人)の事例を次々と列挙する人もいる。
自分の家の目の前をストリートビューで確認した上で「よかった、自分は写っていない」と胸を撫で下ろす人と、「悔しい!写っていなかった!撮影に来ると知っていたら、絶対に写り込みにいっていたのに!」という人。
後者の中には、もしかしたら、「Googleへ報告」ボタンを押して「僕の顔だけボカシを外してください!」なんていうリクエストを出す人もいるかもしれない(笑)。
人々は、こうした新しい技術に対する反応によって、
(ものすごく凡庸な分け方だが)
「オプティミスト」(楽観主義者)と「ペシミスト」(悲観主義者)の2種類にわけられるような気がする(実際には、この両極端の間に90%くらいの「別にそんなのどっちでもいいよ、それよりも今晩の食事はどうしよっか?」という無関心層もいると思うから、正確には3種類)。
一部のオプティミストが「素晴らしい」と絶賛する技術。
例えば「iPhone」や「Google Map ストリートビュー」には、
そうした両方のExtreme(両端)の人々に刺激を与え、意見を活性化する側面があると思う。
こういうことを書くと、オプティミスト(あるいは能天気)な私は、アップルのThink differentのCMの一節を思い出してしまう。
「(crazyと呼ばれる人々は...) Because they change things.」
ここが「彼らはものごとを変えるから」で「よく変える」とか「悪く変える」ではないところは重要なポイント。
なぜなら...
「They push the human race forward.」
よく変えたにしても、悪く変えたにしても、そこから生じる議論によって、人類は先に進むのだから。
「オプティミスト」の一員である私は、変化がないこと=よくないこと、と考えているところがある。
水も流れを失うと、よどんでしまう。
変化が大事といいつつ、古い価値観は非常に重視しているつもりだし、築百年を超える建築が残る、パリや京都なんかの景観は大好きだし、そこで古い伝統を守り続けている方々は素晴らしいと思うところもある。ただ、そうした伝統を素晴らしいと思うのは、そうした建築をつくった最初の人、あるいは最初にそういう風習を始めた人が実はイノベーターだったのではないか、という考え(=素晴らしいイノベーションに千年万年の寿命を与えたいという思い)もどこかにあるのかもしれない。
世の中は、こうしたオプティミストとペシミストの両者の均衡によって成り立っていると思う。
そういう意味では、実は一番、やっかいなのは、他方の考え方を受け入れない原理主義的な考え方だ。
私などは、よく「アップル教」、「iPhone教」の宣教師的な見方をされるので、
何かを書くと、中身を一切、吟味せずに「またアップル教が何かいっているよ」とレッテルを貼られる。レッテルを貼る側が、extremistの原理主義者だと、もう「私が言っている」という事実、それだけでその内容が全否定される。
まあ、もっとも、それはそれで、もしかしたら、それだけ私がキャラが立っていると認められた勲章として歓迎するべきことなのかもしれないけれど...(←このあたりも楽観的ー笑)
オプティミストで、optimismのDNA(でもmemeでも、呼び方はなんでもいい)を残したい私として、オプティミズムの重要性を弁明させてもらうと、
まずペシミズムありきの議論では、世の中のイノベーションは生まれてこない、ということ。
「これができるかもしれない」、「あれができるかもしれない」という自由な発想とオプティミズムは、明日への新しいアイディアを生み出してくれる。
(良いものか、悪いものかがわかるのは、おそらく50年後だが、それでも「it changes things」)。
ここで、そのブレインストーミングの段階で、「いや、それはこういう理由でできない」、「ああいう理由でできない」、「このワーストケースシナリオは考えたか」などといちいち言われていたのでは、先に進めない。
「それで本当にビジネスになるのか?」(そんなことはやってみなければわからない部分も多い)、
「失敗したら誰が責任を取るんだ?」(そうやって責めるのは楽だけれど、他が先にやって、うちが乗り遅れたら、あなたは本当に責任をとってくれるんだろうか?)
「もし、宇宙の彼方から電波望遠鏡をかすめるようにして、冥王星に急接近してきた隕石が途中で、UFOにぶつかって進路が変わって、地球の方にせまってきて、それによって海面温度が変わって、隣の家の赤ちゃんが暑くて目を覚まし、うるさい泣き声が発生するかもしれない。この製品はちゃんとそうしたことまで想定してつくったのか?」
(まあ、これはちょっとふざけ過ぎかもしれないけれど、本当におきるかどうかも疑わしい想定を理由に、アイディアを潰されるような会議は、「製品のアイディア出し」の会議ではなく、むしろ「発想を潰すアイディア出し」の会議と呼んだ方がいい)。
まず、ややextremistのオプティミズムが、ペシミズムが先にありきの世界でのイノベーションを妄想してしまうと、こんな風になってしまいそうな印象がある。
(これ、悪のりし過ぎなので、ペシミスト教の方、どんどん、やり返してください。もし、よければトラックバックか、shyな方は「はてなブックマーク」の関連リンクに表示されるように、こっそりと、このページへのリンクを埋め込んでおいてください)。
司会のアナウンス「それでは、弊社のCEO、トクメイ キボウによるプレゼンテーションです。」
(株)ペシミズムの代表が、こそこそとひな壇に隠れるようにして、サングラスにマスク、コートという姿で壇上に現れる。
代表「この新製品の発表によって、弊社の株価が下がっても、それは私の責任ではなく、弊社一の能天気主義者、○△部長の責任です。
さて、新製品にはいくつかの特徴があります。
まずはセキュリティー機能。本体の正面には、赤い大きな押しやすいボタンがあり、このボタンを押せば、装置がその場で解体し、持ち主を特定することも、すべて一切不可能になります。
つづいて、セキュリティー機能。万全です。弊社では7日の全社合宿で、ハッカーが侵入してきた場合の対処はもちろん、ブラジルの小道で犬が石につまづいたことで起こる温度上昇に対する対処まで、あらゆるワーストケースシナリオを検証しています。万が一、検証しきれていないシナリオがあれば、○△部長の責任です。」
(一時間の後)
「そう、最後にone more thing... ここまで1時間近く、本新製品のプライバシー保護機能とセキュリティーの側面についてお話をしてきましたが、ここで最後に、そもそも本製品が何をする製品なのか、少し説明させていただこうと思います。
本製品は...
えっと、何だっけ?」
○△部長がカンペを出す。
「新開発のFAX機能付き、デザイン複合機です。
あらゆるセキュリティー機能に対応するために、本体がほぼ人と同じくらいに巨大になってしまいましたが、そこは弊社の工業デザイナーの□×のデザイン力でカバーしました。なので、万が一、ご購入者の方の家にそぐわない、という場合は□×の責任で私のせいではありません。」
これはちょっとふざけ過ぎかもしれないけれど、オプティミズムを持って、新しい意見をいうとううことは、オプティミスティックといわれるシリコンバレーにおいても、そしてAppleやGoogleのような会社においてでさえも、常にペシミズムの批判にさらされるリスクを負った勇気のある行為だ。
でも、誰かがそのリスクを背負って、新しいオプティミズムを口にしていかないと、世の中、どんどん息苦しい方向に進んでしまうと考えているのは私だけだろうか。
今のGoogle MapストリートビューやiPhoneに対する批判の多くを、つきつめていくと、
「しかし、これが悪用されたら、どうするんだ?」というところにぶち当たることが多い。
そう、ペシミストの考え方(宗派)の1つに、犯罪者を基準にた世の中、設計がある。
確かに世の中、異常な人が増えてきていることは実感しているし、便利なはずのツールが、彼らの異常な発想を手助けするために使われることは、決してオプティミストの人でも望んではいないはずだ。
特にIT業界のイノベーターの多くは、これは「ダイナマイトでもなければ、原爆でもない」と信じながら、爆発的影響力を持つイノベーションを生み出しているはずだ。
そういう点では、自分がつくったものが爆弾にならないように、オプティミストの人間も、確かにペシミストの意見に耳を傾ける必要はあるだろう。
だが、、まずはペシミズムありき、あるいは何よりもペシミズム優先の世界づくりでは、太陽が明るく降り注いで、人々が陽気に語らいあい、子供たちが大手を振って公園で遊んで、人々が豊かにゆったりとした時の流れを楽しんでいるといった世界観に到達するのに、遠回りすぎるような気がする。
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