iPhoneを通して考える通信のこれから:NetShareとNet Neutrality
Engadget Japanese: iPhone 3GをWiFiモデム化する公認アプリNetShare、脱獄不要
だが、このソフトはその後、すぐに取り下げられる。
iPhone開発者の規約に違反したこのソフトが、一時的とはいえApp Storeに通されたということは、App Storeの審査はアプリケーション単位で行うというよりは、企業単位の審査に基づいていることが明らかになった、と言えそうだ。今後、同ソフトを提供したNullriver社(他に「Tuner Internet Radio」を提供)にどのような処分が下されるかは気になるところだ。
ところで、このiPhoneの無線ルーター化については、さまざまな見方をすることができると思う。
先日、drikinとのSkypeチャットで、こちらのブログの記事が話題になった。
Thirのはてな日記:iPhone 3Gをモデム代わりにしてはいけない
回線を圧迫する無線ルーター利用は、他のiPhoneユーザーに迷惑をかけるからやらない方がいい、という内容で、正論だし、私もおおむね賛成だ。
しかし、その一方で、私はこの考え方には、賞味期限を設定する必要があるとも思っている。
私は今年から来年にかけては、まさに「ケータイ・ビッグバン」とも言える年であり、3つのレイヤーでさまざまな動きが活発化すると考えている(事業形態のレイヤー、端末テクノロジーのレイヤー、通信技術のレイヤー)。
このうち通信技術のレイヤーではWiMAXやHSUPA、EV-DO Rev. Aといった通信技術(そしてその先にあるLTEなど)は、自宅の無線LANと区別がつかないほど高速な通信が売りになっており、おそらく携帯キャリア各社も「高速通信」をウリにしてくるはずだ。
にも、関わらず、実際に契約を交わして端末を買ってみると「ネットワークに負担がかかるので、他の人のことを考えて、遠慮しながら使ってください」では、まったくもって看板倒れになってしまうからだ。
ちょうど5月頃、Joi Ito Labsが「Stupid Network」の提唱者、David Isenberg氏を招いてのセミナーを開催した。
セミナーのテーマは、Net Neutrality(ネットの中立性)。
Stupid Networkについてのnobilog2の過去記事:Stupid Networkと25番ポート
米国では最近、インフラに負担をかけるような利用方法(高解像度動画やゲームなど)に、速度制限をかけるといった動きが広まっている。
これはまさにIsenberg氏が悪としているインテリジェントネットワークの一種だ。
私が15年くらい前に、雑誌記事用に発明した言葉「貧(ヒン)テリジェント・ネットワーク」の方がピタリとくるかな?
要するに、Isenberg氏の主張は、下手にこうしたしくみをもうけると、後でいろいろなところに変な形でしわ寄せがでてくるから、ネットワーク屋は、あくまでも土管屋に徹しろ、というものだ。
とはいえ、実際にネットワークが疲弊しているんだし、仕方がないじゃないかとも思えるが、Isenberg氏は、我々に世界のいたるところで地中にうまっている光ファイバーの束を見せながら、このケーブルは両端のルーターを変えるだけで、今日、全人類が必要としている通信速度を上回るくらいの通信速度をもたせることができる、と紹介。
いわゆる多重波長通信のことだろうか。
最近、よく光ファイバー向けの多チャンネル放送サービスなどの宣伝をみかける。
実はあれ、パソコンのインターネット通信には一切、負担がかからないことをご存知だろうか。
光ファイバーは、同時に違う波長の光を使って通信させることで、複数の通信を両立させることができる。これと同じしくみで、多重波長通信を行えば、同じ光ファイバーのケーブルで、かなりのデータ量の通信が行える。
実際、慶応大学の村井純さんやJoi Ito Labs(あと、たしか古川享さんもですよね?)らは、自宅に通常の光ファイバーよりもはるかに高速な通信ができるルーターを置いているため、同じ光ファイバーを使って、夢のような未来の高速通信ができる環境を実現している、という。
ちなみにIsenberg氏の講演によれば、上の写真のケーブルには864の光ファイバーが通っていて、それらの光ファイバー1本1本が160種類の波長の通信を同時に扱える。
1つの波長あたりの最大通信速度は10Gbit/secなので、
1本の光ファイバーあたりの帯域は160x10Gbit/sec=160Tbit/sec。
これx864本となれば、確かにそれなりに凄い通信が可能そうだ。
もちろん、ケーブルの両端の通信装置を変えるためには、それなりの投資は必要だが、これはケーブルそのものの敷設と比べたら安いし、今後、WiMAXやLTEの時代がくることを考えると、避けては通れない投資。
iPhoneが話しのとっかかりになったが、これはソフトバンクだけの話しではない。
auだってCDMA 1x WINの開始と同時に(米国みたいに)パソコンからの定額(あるいは超低価格)接続サービスを提供していれば、今日、E-Mobileについている顧客の一部をモノにできていたかもしれない。
いずれにしても、ソフトバンクに限らず、他のキャリアも、これから1年くらいは、あまり慎重になりすぎずに、インフラ投資で頑張っていって欲しいと思う。
P.S. [最初OB25Pと書いていたのをOP25Bに直しました。私の頭の中にいかに浸透していないかの照明 ;-) ]以前の記事で、OP25Bには、あまり賛成できない、といったことを書いたが。この考え方は今も変わらない。迷惑メールは、大嫌いで、mixiでも真っ先に迷惑メール反対のコミュニティーをつくった口だが、OP25Bには、Stupid Network的な観点からも、あまり好きではないが、それに加えて、これがほとんど日本だけでしか、行われていない政策という点でも、あまり評価できないと思っている。
日本人は、いつも、真っ先に、こういうおもしろいことを考えるのだが、どうしてもそれを世界的標準に持っていくのが苦手で、結局、そこで負けてしまう。昨日もmodiphi社の発表の後、そんなことをランチで話していた('90年代、アジアに進出しようとしていた、日本の建築系企業は、皆、JIS基準で建築をつくっていたが、その後、ISO基準が広まったため、撤退を余儀なくされた、という話しだ)。
【更新:このPort 25 Blockingの海外での採用についてはコメント欄でいくつか異論をいただきました。たしかに「OP25B」という呼び方こそ日本独特なもののようですが、ISPレベルでの、ポート25ブロッキングを採用しているところは米国でもたくさんあるようですーーそれも主要なところ。私が体験的に、欧米では広まっていないと感じているのは、もしかしたら私が海外訪問時に利用している公衆接続サービス(例えばホテルや空港の接続サービスや公衆無線LAN、そしてイベントのプレスルームの回線)がポート587をあけていない、というだけのことなのかもしれません。これは追って調べてみます。というか、欧米在住の友人の方、ぜひコメントを!
そういえば、あるイベントでは、メールが送信できないという苦情があまりにも多かったからか、2日目からプレスルーム内に誰でも使えるSMTPサーバーを設置していたのを思い出しました。】
もし、ある世界観なり、考えを真剣に広めたい、と考えているのなら、日本市場だけに目をむけるのではなく、世界標準にしようという考えで、努力していかなければならないと思う。
インターネットは、まさにそういう世界のはずだが、日本にはそういう視点が足りないと思う。
P.S.2. iPhoneについて、もう1つ不満を言わせてもらうならば、3G通信時に、iTunes Wifi Storeが使えないのはおかしいと思う。10MBまでのアプリは3Gネットワークで買えるし、YouTubeも(画質が落ちるとは言え)3Gで、見れるのに... 友達と「あの曲ってどんなメロディだっけ?」という話しになったとき試聴できるのはすごくいい機能だと思うのだが...