タイムマシン誕生、期間限定で...

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ついにみんなの欲しかったタイムマシンが誕生する。
テレビの前で1週間の時間旅行が楽しめる、あの製品、「SPIDER」のことだ。

「SPIDER」はすべてのチャンネルのテレビ番組を1週間分録りだめしてくれる夢のマシンだ。
これまでは市場調査ツールとして法人向けのみに発売されていたが、
開発元PTP社は、今日から一般コンシューマー向けの「SPIDER Zero」の限定発売を開始する。

会社で同僚に「昨日の夜9時のあの番組みた?」って聞かれたときに、
シレっと「みてないけど、今晩みてみる」と答えられてしまうマシン。

ブログの「昨日観たこの番組がおもしろかった」という記事を見てから
親指1本の操作で、その番組を呼び出せてしまうマシン。

そして、これまで『つまらない』と思っていた地上波を
「案外、いい番組やっているじゃん!」と見直させてくれるマシンでもある。


私はSPIDERを手にするまで、今の地上波で興味をそそられる番組がなく、
しばらくの間、BSデジタル放送しかみていなかった。
でも、実は地上波でも、構えてみようとすると、みずらい隙間の時間に、
案外いい番組がいっぱいやっているのだ。

例えばSPIDERで、よくみる番組の1つにテレビ朝日の「都のかほり」がある。
5分だけ、京都や奈良といった古都の風情に触れ気分をリシュレッシュしてくれる、BS放送的ないい番組だ。
ただし、放送時間は月〜金の午後8時54分からという、家に帰っていないか、帰っていてもちょうど食事が終わってメールをチェックしていそうな時間に放映されている。
でも、SPIDERを使えば、土曜日の午後に1週間分の「都のかほり」をまとめてみることができるのだ。
ちなみに、この番組、どうやって遭遇したかというと、SPIDERでは、あらかじめ気になるキーワードを登録しておけるので、そこに「京都」といれておいたところ、この番組が引っかかって、初めてその存在を知った。
これに加えて、リモコンで番組表を見ていて「発見」した番組もいっぱいある。

一度、PTPの方には伝えず、こっそりと米国のO'Reilly MediaのMacDevCenterから受けたインタビューで、名前を出さずに触れたところ、やはり「革命的製品」と、凄い反響がよせられた。


その後、昨年末、ascii.jpで「日本未発売のレアモノ続出! 林信行お勧めの、忘年会で大ウケした「ガジェット5」」(このタイトルは編集者がつけている)という記事を書き、最後のトリとしてSPIDERを紹介したところ、話題が沸騰し、問い合わせ殺到した。

それからしばらくPTPと音信不通になっていたところ、このSPIDERがCNet Japan主催のTech Venture 2008に応募していることを知り、ちょっと困った。
実は私はTech Venture 2008の審査員をやっていたからだ。私には1次審査をパスした会社から10社に投票する権利があった。別に細かいことを気にせずPTPに投票すれば良かったのかもしれないが、それでPTPが受賞したらSpiderユーザーが恩義を感じて投票したんじゃないかと、勘ぐられそうだ。
なのでCNet Japanの方々にメールを書いて、1票は棄権、9票をPTP以外の会社に投票させてもらった。
そんなことはないだろうと思いながらも、「もし、PTPが1票足らずで、受賞できなかったら嫌だなぁ」と思いながら審査結果を見に行ったが(結果は審査員も発表の瞬間まで知らされなかった)、PTPは見事に第1回Tech Venture 2008を受賞してくれた(まあ、当然と言えば当然か...)。最初は発表会場の隅に隠れていたが、ようやく胸をなでおろしてPTP社長の有吉さんに挨拶しにいったのを覚えている。


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(実は気が動転していて、デジカメを忘れたのでiPhoneで撮影)
まあ、そんなこんなで、今となっては、いろいろと思い出もあるSPIDERだが、
実はこれが本日から一般売りの商品としてヨドバシカメラやビックカメラで発売されることになった。
それに先駆けて、PTP社のご好意で、SPIDERを愛用している他の方々を事例紹介としてインタビューさせてもらう機会を得た。

WWDC 2008、iPhone 3G発表の直前にしあげた(いや、1つは実は今週始めにしあげて)そちらの記事も、今日からこちらで公開されている:
各界のトップランナー達が語る「SPIDERとは何か?」

 i-modeの生みの親の1人である夏野さんPlayStationの生みの親の久夛良木さんも、ニッポンの朝の顔の小倉さんもiモードやPlaystationや「とくダネ!」について語るのと同じくらいの情熱を持って、SPIDERについて熱く語ってくれた。

 一方で、普段は高画質マニアとして、ハイビジョンの素晴らしさを語っているデジタルメディア評論家の麻倉怜士さんも、映像メディアには高画質で録っておきたい「保存用」のベクトルと、それとは違う情報として残しておきたい「アーカイブ」としてのベクトルの2つがある、と冷静にSPIDERの良さを分析してくれている(こちらも「そうそう!その通り」と思わず納得してしまう。麻倉先生とはこの件で、親しくなり、翌週のJEITAの講演の楽屋でも話をさせていただいた)。

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 インタビュー中、何度、中断して例えば「そうそう、そうそう。そうなんですよ。番組表からみたい番組を選ぶとすぐに再生されるそのスピード感がいいんですよね」といった具合にシャシャり出てインタビューを中断してしまいそうになったことか(実際に1人につき6〜7回は、話題に参戦してしまった)。
 実はSPIDERって、他のオーナーとともに「その製品の素晴らしさ」を、語り合っている瞬間も非常に楽しめる機械だ。「いや、試したことないかもしれないけれど、こういう使い方をするとおもしろいんだよね」とか「いやいや、知っていますよ。私もそれよくやっている」とか。
 これだけ話題として話してもおもしろい製品って、最近だと他にはiPodとiPhoneくらいで、日本からはなかなか出てきていない気がする。

とにかく、SPIDER以外の話題でも、おもしろい話満載で、読んで楽しんでもらえる内容だと思うので、ぜひ読んでみて欲しい!

そうそうiPodやiPhoneとSPIDERで似ているところと言えば、
その潔い切り捨てのデザインであるとか、
「テレビを楽しむ文化を広げたい」といった製品の背後に深い思想があることもそうかもしれない。

またiPodという素晴らしい製品は、実はAV機器メーカーでもなんでもないアップルだからこそつくれたのと感じる部分があるのと同様で、SPIDERもAV機器メーカーでもなんでもなかったPTPというベンチャーだからこそつくれた、と感じる部分も多分にある。
このあたりのところも、メーカーの人には、ぜひともSPIDERを会社で購入して、(ユーザーインターフェースの割り切りも含めて)研究してみて欲しい。

今日から発売する一般向けの製品「SPIDER ZERO」については、
私も詳細を知らされておらず、今、このブログを書きながら詳細を確認しているところだ。
それなりに価格を下げるために、1週間録画はできないんじゃないか、と心配したけれど、
約3日間録画の1.3TB版だけでなく、1週間録画の2.5TB版もちゃんと販売されるようだ。

新聞各紙にも、おそらく明日には(早いところは今日から?)ニュースが載ることだろう。
iPhoneが「電話のあるべき姿を永遠に変えてしまった」画期的な製品であるとするなら、
SPIDERは「テレビのあるべき姿を永遠に変えてしまう機械」として、世界に自慢できると思う。

もっとも、このSPIDERが、その革新性を発揮できるのは期間限定だ。
そのことははっきりさせておく必要があるだろう。
今回、発売になった「SPIDER ZERO」も、これまでの市場調査のツールとして業務向け販売されていた「SPIDER PRO」も、地上アナログ放送のみの対応となっている。つまり、2011年だったかの地上アナログ放送停波とともに使えなくなってしまう機械だ。

つまり、「SPIDER ZERO」を買う人は、
20世紀のはじめ頃から、人類を湧かしてきた「テレビ」という素晴らしいメディアの
最後の数年を、最大限に楽しむための装置と覚悟した上で買う必要がある。

1週間の録画用とは別に用意された、ハードディスクの保存領域に、
テレビが楽しかった時代のお気に入り番組をめいっぱい保存しておき、
2011年の地上アナログ放送停波を迎えたそのあとは、
テレビが楽しかった時代の「タイムカプセル」として楽しむことになるだろう。


地上デジタル放送については、いくつか思うところがあるので、夕方にでも別のエントリーを立てて書こうと思う。
本当は、ひと続きで書いたのだが、あまりに長くなったので、別記事にして、昼頃時間指定公開するようにしておこうと思う。

投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2008年06月20日 | Permalink