自著を通して知る書籍販売のイノベーション

9月以降、尋常でないほど忙しかったのには理由があります。
実はいくつかの本の執筆を同時に進めていました。

来週、単著(自分1人で書いた)本が2冊、ほぼ同時に発売されます。

私は日頃から取材や人にあうことが多く、一部の編集者には「一生、本が出せない」と言われていました。ニュース記事や分析記事といった消耗型の記事に時間を消耗されて、じっくり本をまとめている時間がないからです(それにニュース記事はあとでまとめなおしても価値がない。もっとも、10年以上、つづけてきたおかげで、今では昔取材したニュースが歴史的価値を持っていますが)。
私自身も昔は日々の仕事に忙殺されていて、そもそもそんな余裕がありませんでした。
初めてチャンスをくださったのは元H川書房のmuratさんですが、もったいないと思いながらもお断りしてしまいました。その後、元アスキーの飯田成康さんのおかげで、初めての本を出せたのですが、共訳本でした。それ以後、何冊か出した本も共著本ばかりです。

 というわけで、実は単著(1人で書いた)を出すのは今回が初めてとなります。
 それが、いきなり2冊、ほぼ同時のタイミングで発売することになってしまいました。

 どこかのタイミングで紹介しようと思っていたのですが、今日、「SPOTLIGHT!」さんというブログで紹介されているのを見て、そろそろ紹介する時期かな、と思いました。

 どちらもアップル関係の本と言えば、アップル関係の本です。

 書店での発売の順番に紹介します。


 17日に発売となるのが(書店は18日かもしれません)
 アスキー刊の「スティーブ・ジョブズ 〜偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡〜


Stevejobs

ジョブズの半生をレアな写真と、彼自身の人を惹き付ける言葉や時代を反映するエピソードとともに綴った本です。

 もう一冊は日経BP刊の「iPhoneショック」。

Iphoneshock

 今年、Google検索でももっとも注目された検索語となった「iPhone」。たったパソコンメーカーから、音楽業界で無視できない存在になり、わずか1年足らずで携帯電話業界でもっとも影響力がある会社になったアップルのiPhone戦略、iPod戦略を振り返りつつ、日本のメーカーがどう頑張ったらいいかを一緒に考えていく本です。

どちらもアップルに関係した本ではあるけれど、まったく違う種類の本です(個人的には表紙の色で黒本、白本と読んでいます)。

実は今週、これらの本が出たことで、amazonを使った本のマーケティング的な部分をちょっと学ぶことができました。

例えばこれ:

amazon.co.jp/apple



amazonのURLというと、いろいろなコードが埋め込まれた長ったらしいURLというイメージがあったんですが、こんなことができたんですね。

そこで試しに「amazon.co.jp/ipod」と入れてみると、こちらは特定商品の宣伝ではありませんが、やはりiPod関連製品がズラっと表示されました。

amazon.co.jp/macと入力すると、いきなりインクカートリッジが出てきて驚いたのですが、よく見るとページの上に「アップルストア」と出ています。
どうやらアップルストアの出張所のようです。

 今回、本を出してもう1つ学んだのは、amazon先行発売。
 日経BPの「iPhoneショック」は、書店売りは20日からですが(予約の受付は開始しているようです)、amazonでは13日から先行発売をするようです。
 つまり、書店売りは「スティーブ・ジョブズ 〜偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡〜」の方が先ですが、amazonでは「iPhoneショック」が先に発売となります。
 そういえば、「スティーブ・ジョブズ 〜偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡〜」は18日発売と聞いていたのに、amazonでは17日になっているのは、こちらも先行発売しているからかもしれません。

 本を売るというだけの単純な行為でも、いろいろイノベートする余地はあるのだなぁ、と改めて感心させられました。
 リアルの書店の方にも、リアル書店ならではのイノベーションがあると思いますし、ぜひとも頑張って欲しいところです。できる範囲での協力は惜しまないつもりです(できれば、日本のリアル書店発の、新しい書店のあり方、みたいなアイディアを(ビジネス特許を獲得した上で)海外に輸出したいですよね!)

 なお、私はこれはイノベートしようと思っているわけではありませんが、以前から少なくとも自分の本にだけはアフィリエイトをいれないようにしています。
 これは単純に「気持ちがいい/悪い」といった感覚の問題です。
 自分の本でアフィリエイトをもらうことに「私は」居心地の悪さを感じてしまい、外した方が気が楽だからです。
 他の人にもそうして欲しいということではありませんし、否定するつもりは「一切ありません」。実際に他の方のブログで、その方のアフィリエイト経由で本を買ったことも何度かあります。

 以前、このことを書いた時、どなたかがトラックバックで「これは新しいマーケティングか?」と評価してくれていました。確かにそう見るとおもしろいので、これからはそういおうかと思っています。
 自分で自分の本を紹介するよりも、他の方が自分の本を紹介してくれた方がいいですもんね。

 これらの本が気になった方は、トラックバックで、他の方のレビューをしっかり読んでから、ぜひその人のアフィリエイト経由で買ってください(どなたか、そういうブログパーツをつくってくれるとうれしいです。ついでにamazonなり、Yahoo!ブックス、楽天ブックスがそういうブログパーツをプロデュースしてくれてもいいかもしれません。私は使います)。
なお、これまではちょっとでも関連のあるトラックバックは残していましたが、この記事に関しては、あまり関係のないトラックバックは消します。

 1447年のグーテンベルグの活版印刷技術までいくと遡り過ぎかもしれませんが、何百年という歴史のある書籍の販売方法1つをとっても、世の中のコンテクストにあわせて常に進化しており、まだまだいくらでもイノベーションの余地があるのです。
 
 今回書いた2冊の本は、書いている過程でも、学ぶことがたくさんありましたが、まさか売る段階になっても重要なレッスンを学べるとは思ってもいませんでした。
と前半だけでも、かなり長々となったけれど、さらにもうちょっと...

ブロガーと違って、紙の本の筆者は(雑誌にしても、書籍にしても)まったく無力な存在で、編集者やデザイナー、進行といった方々の協力があって初めて「命を得る」ことになります。

「原稿料もらえたからそれでいい」という人もいるかもしれないけれど、
筆者たるものやはり書いたからには読んでほしい、という人が大半でしょう。

でも、ブログと違って、書籍や雑誌は、ただ書いただけでは誰も読んでくれません。

書籍なら粋なタイトルやかっこいい表紙があって、初めて手に取って立ち読みしてみようと思うもの。
雑誌も同じで、どんなに頑張って記事を書いても、ひどいレイアウトのページだと、そもそも誰もそのページで指を止めてくれない。

そして記事が読まれないことには、存在していないも同然なのです。

だから、私は雑誌の仕事でも本腰をいれて仕事をするときには、できるだけ打ち合わせにデザイナーの方にも参加してもらって、記事のコンセプトや訴えたい内容。どういう人に読んでほしいかを伝えるようにしています(残念ながら、最近はそういう仕事がめっきり減りつつあります。雑誌の仕事を減らしているせいかもしれませんが、だから雑誌の仕事を減らしているとも言えるかもしれません。)

どんな本においても、本当の意味での一番のクリエイターは編集者です。

よく本のあとがきを読んでいると、編集者への感謝の言葉を連ねているのをよく見かけますが、私も今回、改めてその気持ちがわかりました。
 「スティーブ・ジョブズ」の編集者は矢野裕彦さん、  「iPhoneショック」の編集者は中川ヒロミさん。  矢野さんにはいろいろインスピレーションをもらったし、中川さんとは本当に長い間、何度も何度も打ち合わせを重ね、本を書く上で非常に重要な視点を加えてくれた取材をいくつもアレンジしていただきました。どちらの本のあとがきも、2人への感謝の辞を述べるには短過ぎました。

装丁やデザインも重要です。

 その点では、私は「アップルコンフィデンシャル2.5J」以降大変恵まれているようで、今回も「スティーブ・ジョブズ 〜偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡〜」では、DTP界では有名なar graphic design officeの代表取締役兼アートディレクターの菊池美範さんが自ら関わってくださいました(自分自身ではあまり書籍は手がけないそうなので光栄です)。

 「iPhoneショック」の装丁は、以前、共著した「ブログ・オン・ビジネス」の装丁も手がけてくださったインフォバーンの木継則幸さんです。


 立ち読みと言えば、2冊の本はどちらも、なか見検索に対応しているはずです。
ちなみに「iPhoneショック」は念願のGoogleブック検索も対応予定で、うれしいかぎりです。おかげで取材して得た知識が本の中、あるいは本棚の中に閉じ込められることなく、ネットから検索ができる。
 検索して既に持っている本が出てきたら、あらためてページをめくっていただけばいいわけで、それまたそれで筆者にとってうれしいことですし、持っていない本なら買ってくださればいいわけで、それもそれでうれしい。

さて、ここでついでにこの2ヶ月で出た他の本についても宣伝。

1つは「できるポケット+iPod touch (できるポケット+)
有名な「できる」シリーズで本をださせていただくのは初めてです。

Ipodtouch


もう1つは、アスペクト刊で、書籍というよりはムック。
Mac OS X Leopardビュンビュンテクニック」。
Byunbyun

このビュンビュンシリーズは、一番、最初のMac OS X v10.0のものから、ずっと巻頭を書かせてもらっています。まだ、Mac OS Xが海のものとも、山のものともわからない時代から、アスペクトさんが同OSの将来に賭けて、出してきたシリーズです。
この最初のムックの表紙が懐かし過ぎます。

実は「できるポケット+iPod touch (できるポケット+)」は、自分1人で書く時間は確保できないので、きっちり、しっかりとした仕事をしてくれる方と組まないとダメだと思ってました。
そこで、ちゃんと〆切りを守って、きっちりした仕事を仕上げるライター兼編集者として信頼しているbinWord/BlogのTats_yさんに相談しましたが、彼はビュンビュンテクニックの編集者で、受けられるわけがない。
そこで、Tats_yさんが信頼しているという田中拓也さんを紹介していただきました(それにしても「できる」シリーズは、実は影に隠れている編集者こそが筆者なんじゃないか、と勘違いするほど編集者が大変そうな本です。田松さま、お疲れさまでした)。

 「できる」での私の貢献は、ただ、文章を書いて、売るというだけではつまらないので、小マーケティングを提案したことです。
 私は以前から、本屋さんにたくさんある本の中から、わざわざ私が書いている雑誌/本をとりあげてくれた、あるいは数ある記事の中からわざわざ私が書いている記事を読んでくれた人には、何倍にしてでもお返しをしなければならない、という意識が強くあります。
 たまにその方向性が間違っていて、ついつい長い長い記事や、情報密度が多過ぎて、消化不良をおこしそうな記事を書いてしまいがちかもしれませんが、実はそういう理由があってのことなのです。

 さて、「できる」では、巻頭の挨拶や動画圧縮の部分を書かせていただいたのですが、この動画の部分でロキシオ社の圧縮ソフト「ロキシオクランチ」の特別優待販売クーポンをつけさせてもらいました。

Crunch

 「できる」は初心者向けの本。ロキシオクランチは、パワーユーザー向けではないけれど、初心者には非常にわかりやすく使いやすく、しかも、クロスプラットフォームなソフトなので、まさにこの本にはピッタリだろうと思って、入校前日に交渉したところすぐに快諾をいただけたため、優待販売が実現しました。
 ちなみに「できる+ポケット」シリーズでは、他にも内容の一部をPDFで配ったり、WebページをiPod touchに最適化したりと、いろいろ工夫/イノベートしています。

 こうした工夫のすべてが、実際の売り上げに結びつくわけではないでしょう。
 しかし、とりあえず試行錯誤を始めてみないことには、何がいいかなんてわからない。
 試行錯誤して試してみる。
 それをユーザーの方が使ってみる。
 場合によってはそこからフィードバックがあり、それにあわせて改良をする。
 そういうことをして初めて、世の中って良くなっていくのだと思います。

 Mac OS Xの最初のバージョンも出た当時は、さんざんの評価でした。
 でも、あの時、あの状態でも出したからこそ、今のMacの状況があるのだと私は信じています。

[*1]muratさん
元早川書房で、Wallstreet Journal紙のJim Carltonが書いた名著アップル―世界を変えた天才たちの20年を翻訳しないかとお誘いをいただきました。
 その後、同社を辞めた後、日本初の著作権エージェントになると宣言して、boiledeggs.comを立ち上げました。
同サイトでは、新人作家を次々と発掘しています。
有名な三浦しをんさんもここでデビューしました。私も同時期デビューのはずでしたが、落ちこぼれ組になってしまいました。
 素晴らしいことに最近ではそうして発掘した作家の方々を海外にデビューさせる仕事もしているようです。
 自信のある新人執筆家の方は、出版社に応募する前に、ぜひboiledeggsにも応募してみてはいかがでしょう。muratさんは編集経験も長いので、いろいろ素晴らしいアドバイスも持っているはずです。
 前にNHKの別の番組でも紹介されていましたが、「プロフェッショナル仕事の流儀」で、ぜひとも紹介して欲しい1人。

[*2]山崎理仁さん
元MACPOWER編集長で、それ以前には翻訳の仕事をしていた山崎理仁さんは本当にすごい翻訳家です。彼はMACPOWERで紹介されていたDilbertのアメリカ流のシャレを、そのニュアンスを残しつつも、正確さの点においても妥協しない訳を見つけるために、1語あるいは1行のために3日でも4日でも、かけるこだわりの人です。その姿勢には本当に頭が上がりませんDilbertについては、かなりいろいろなところで、いろいろな方が訳されています。どれも素晴らしい仕事だと思いますが、個人的には山崎訳版が一番、しっくりしている気がしてしまいます。

投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2007年12月08日 | Permalink

  • Re: 自著を通して知る書籍販売のイノベーション


    こちらの記事、mixi側ではコメントが盛り上がっています。
    有益な情報もあるので、一部、こちらに転載します(以下は私の情報ではありません。名前を出していいか確認できてから、その方のmixiネームを出そうと思っています)。

    まだまだ、私が書いたようなのは序の口で、「amazonキャンペーン」で検索すると、
    「PDFプレゼント」、「音声ファイルプレゼント」、「3冊買うと講演会へ御招待」とか、いろいろあるみたいです。

    リアル書店も流通トーハンが舵取り役で、こんなサイトもあるそうです:
    http://www.e-hon.ne.jp/



    ただし、やっぱり、なんとかしたいのはリアル書店ですよね。

    本屋って、本来はもっと楽しい場所のはずだったのに...

    以下、mixiに書いた私の思いつき:

    例えば増井さんがやっている本棚.org(http://pitecan.com/Bookshelf/)をリアルに用意するなど、やはり、本屋が場所としてのおもしろさを提供するのが一番な気がします。あの本屋に行けば、例えば有名人の本棚が再現されていたり、本のソムリエ(これは)がいたりと、まず本屋そのものを、そこにいけばいい刺激が受けられる場所。
     仕事の打ち合わせをしつつ、本屋を歩いて最近の人気本の背を見ているだけでインスピレーションが得られる場所にしていくとか...

     ここまで読まれた熱心な方は、ぜひ、匿名でもいいので、あなたのアイディアも気軽に書き込んでください!

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    投稿者名 nobi