カイゼン × Bootstrap

3日遅れの話題ですが、時間がないときでも、ついつい見てしまうのが「NHKスペシャル」。11月26日放送の「トヨタ 世界一への条件〜グローバル企業の苦闘〜」もおもしろかった。

<p/> 車の出荷台数もGeneral Motorsと10万台差になった「世界のトヨタ」。 車自体の好き嫌いは別としても、「トヨタ式(THE TOYOTA WAY)」として知られる、同社の「ものづくり」の方法や、ざまざまなBusiness practiceは世界中に大きな影響を与えている。 「カイゼン(改善)」という言葉も、もはや世界語となった。

<p/> 212 (写真は本文とまったく関係ありません。久々にectoというソフトで記事を書いたら、行間がつまり過ぎて読みづらかったのでスペーサーとして入れています)。

<p/> 今回の「Nスペ」は、そのトヨタがグローバル展開を進めていく中、トヨタ式のミーム(トヨタ式のDNA)を、どのように伝えていくかに焦点を絞り、2つのストーリーを軸に話が展開する。

<p/>テキサス州サンアントニオでは、「ものづくり」の経験がない現地のマイノリティーを雇用し、これまで進出を果たしていなかった最後の牙城、「ピックアップトラック」の製造をもくろむストーリーが展開する。 現地マイノリティーの雇用は、かつて米国で起こった「日本車叩き」を改善しての試作だろう。

<p/>もう1つのストーリーは、タイにあるトレーナーを教えるための研修施設のストーリー。 トヨタ式のミームを伝えるトレーナーの役割を、日本人抜きの、現地人トレーナーが1人立ちするまでの様子を追った。

<p/>tokyo@night

<p/>「ものづくりの心」を教えるためにレゴを活用したり、昇進するたびに新しい帽子をもらえる制度を用意していたりと、話の節々に「トヨタ式」の工夫が見えるのもなかなかおもしろい。

<p/>ところで、「カイゼン」と言う言葉を聞くと、1つ思い浮かべずにはいられないものがある。 マウスの発明者としても有名なダグラス・エンゲルバート博士がつくった「Bootstrap Alliance」だ。

Bootstrapは、マウスと並ぶ、エンゲルバート博士の、もう1つの偉大な発明品。

昔、コンピューターのメモリが少なかった時代、メモリにOSなどの大容量プログラムの内容をいきなり読み込ませるのには無理がある。 そこで、エンゲルバート博士は、まずはOSを読み込ませるためのローダー・プログラムを読み込ませ、それを通してOSを読み込ませる。 つまり、より小さな起動力を出発点に、より大きなものを動かす、というしくみを提案した。

<p/>現在、エンゲルバート氏は、このコンセプトをコンピューターだけでなく、広く人類の進歩に応用しようとBootstrap Instituteという団体をつくって活動している (少なくとも最後にインタビューしたときはそうだった)。

<p/>このBootstrapの特長は、ただ改善をするだけでなく、「改善する仕組みそのものを改善するための機構を用意すること」。

数学的にいえば2次関数の世界。

プログラマー用語でいえば、変数ではなくポインターの世界。 文学やアートでいったら、うーん、なんだろう...評論家を評論した作品!?

<p/>自分がエライといいたいわけではないが、私も以前、ずっといろいろ考えていて、同じ結論にたどり着いた。 それだけに先のインタビューをして、Bootstrap Instituteの考えを聞いた時には、とてつもなく感動した。

<p/>それにしても、もはや、こうした人類の英知は、IT業界だ、プロダクト業界だ、アートの世界だといった垣根を越えて、共用、進化、発展させられていく時代になったんじゃないかと感じる。

これからの時代は、そうしたアイディアを、どれだけabstraction(抽象化)とgeneralize(一般化)して捕らえることができるかが大事なんじゃないかと思う。

そういえば、これまでインタビューしてきた天才達は、どの人も抽象化と一般化の名人だった気がする。


投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2006年11月29日 | Permalink

  • Re: カイゼン × Bootstrap


    この記事のダイジェスト版をmixiに載せている。
    そこで非常におもしろい指摘があった。

    1つはトヨタ式が、郵政公社ではうまくいかなかったという指摘。

    実は郵政公社の件は知らなかったが、こちらで関連記事を見つけた:
    <a href="http://blogs.itmedia.co.jp/matsuoka/2006/10/__5e87.html" rel="nofollow">http://blogs.itmedia.co.jp/matsuoka/2006/10/__5e87.html</a>

    時間がなくて、他の記事は読んでいないが、仮にこの記事の指摘が正しいとすれば、「どんなに素晴らしい手法を持ち込んでも、それで自分たちの会社や組織を強くしたいという思いが社員全員にないと、改革はうまく行かない」というのが原因のようだ。

    もう1つは、伝承を うけた外国人が他の外国メーカにうつったり、 現地のメーカにヘッドハンティングされたり しないのか、という話。

    これらについては、確かに番組ないで触れてはいなかったが、私の中でピンとひらめいたものがある。MacPeople雑誌最新号の雑誌内雑誌、「bossa mac」で、数々の有名メーカーのブランディングを手がけるランドー・アソシエイツのクリエイティブディレクターの西脇さんをインタビューしているが、西脇さんは対外的なだけでなく、社内向けのブランディングも重要だ、という点を指摘してくれていて、実際に同社が企業内のブランド意識を高めるために活用しているツールなども紹介してくれている。

     ブランディング×トヨタ式の中で、何か新しいスキームが生まれてきそうだ。

     もう1つ、これまで日本人にどうやってDNAを伝承してきたのか。最近、日本で品質問題が 取りざたされているのは今までのやり方が 日本人に通用しなくなったのではない か、という指摘もあった。
     これについては番組は「熟練する前の労働者が現場に出ることが増えたのに、伝承の仕方が変わっていなかった」と説明し、それまでのやり方を「カイゼン」し、ベテラン社員をリーダーとするリーダー制導入などの改善策をとっていると紹介していた。
     こうやってこの問題に対処したところで、やがて熟練者の割合が変わってくれば、また、それまでのやり方が通用しなくなることもあるかも知れない。

     ただし、こうした「カイゼン」方法の修正を何度か繰り返していくと、「こういう場合には、こういう訓練」といった、シチュエーション別の対処方法ができあがっていく。Bootstrap Allianceが提案している「カイゼンのカイゼン」とは、まさにこんなことなんじゃないかと思う。

    投稿者名 nobi