FirefoxがAppleを抜いた日

ちょっと前まで、私のFlickrで一番ビューが多かったのは、こちらの写真だ:

a vehicle found near the Moscone Center

San FranciscoのMocone Center(MacworldやWWDCの会場)の近くで見つけた車の写真だ。
Cult of Macの筆者、Leander Kahneyに教えたら、彼が喜んでCult of Mac blogで紹介したこともあって、一気にビューが増えた。

その後、2代目のMacBook ProでiSightのインジケーターが消えたことを紹介した写真が、Engadgetで紹介され、これが1位の座を奪ってしまったが、それでもApple Carの写真は約5200ビューとFavorite印22個で、上位5位くらいには食い込んでいた。

ところが、先日のMozilla24で状況が一気に変わった。

同イベントで展示されていたFirefoxのシールが貼られたCelicaの写真を撮ってflickrにアップしたところ、それがGen Kanaiのブログで紹介され、そこから一気に世界中に広まった。

Gen Kanai weblog: FIREFOX CELICA

ちなみにこちらの写真だ。
Firefox car found@Firefox ROCK FEST! (Mozilla24)

一昨日くらいまでの段階では、2500 Viewくらいで、まだまだApple Carの方が優勢を保っていたが、昨日の段階ではApple Carを超えて6000 Viewくらいになり、今では一桁多い8万ビューに突入、わずか2〜3日で私のFlickrで、もっとも見られている写真の座を奪ってしまったのだ。

Apple Carよりも、Firefox Carの方が、はるかにスピードが速かったのは、何も車種のせいだけではない。
Mozillaコミュニティーの結束力の強さ、そして同コミュニティーとCreative Commonsとの親和性の高さも関係あるのではなかろうか。
今回、Firefoxの写真がこれだけ広まったのは、私のFlickrを見ている人が多いからではない。
普段は携帯電話で撮影してアップした意味のない写真も多いし、ほとんどの写真は10 View以下だ。

しかし、私はFlickrの写真をCreative Commonsの「by-nc-sa」というライセンス形態で公開している。

「by」は、「Attribution(表示)」という意味で、
それが私(=Flickrでの名前は「nobihaya」)の写真であることを明記すれば写真を使っていい、という意味。

「nc」は、「Non-Commercial(非営利)という意味で、
それが商用媒体などでなければ、写真を使っていいという意味。

「sa」は、「Share Alike(継承)」という意味で、私の写真を加工した場合には、私と同じCreative Commonsのライセンスで共用して欲しいという意味。

まとめると、私のFlickrにあがっている写真は、非営利の媒体であれば、わざわざ私に連絡をとって許可を請わなくても、勝手に使っていいですよ、という意味だ(別に商業媒体での利用は不可能!というわけではなく、商業媒体で使いたい場合には、私に許諾をとってくれれば許可をすることもある、という意味だ)。

 このようにオープンにすることで、私の写真がどんどんといろいろなブログで紹介され、写真の腕前に見合わないくらい有名になることができているのだ。

 これ以外にもCreative Commonsを使うと、いろいろいいことがある。
 詳しくは、こちらのビデオを見てもらうとわかりやすい:


また、Creative CommonsのWebページにも詳しく書かれている。

 Creative Commonsについては、これまでにもいろいろな雑誌やWebの記事で書いてきたし、早い頃からブログを始めている人のほとんどが知っているものだと思っていた。

 しかし、最近、一緒に仕事をした雑誌の編集者などに教えると、意外と知らない人が多い。

 ちなみに私は「非営利」のライセンスにしているが、例えば伊藤穰一(Joi)さんは、「クレジットさえ入れれば商用利用も可能」というライセンスを採用している。
 先日、D5というイベントで、スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツが退団をしたが、Joiさんは2人が一緒に写っている素晴らしい写真を撮った。
 Joiさんの写真は、ものすごくいい写真だった上に、このライセンスを採用していたためNew York TImesの記事で使われることになった(Joiさん、自身がNYTの記者の友人ということもあるが、記者が写真を使うという判断をする際には、Joiさんのライセンスも関係していた。ちなみに、この話にはちょっとした後日談があるようで、NYTでもやっぱり上層部はCreative Commonsの考えがわかっていないようだ。その話、機会がある人は、ぜひJoiさん自身に聞いてみて欲しい)。

 このJoiさんの写真は、私も講演の時につかわせてもらった。
 その後、MacFanがD5の写真を探していたので、Joiさんの写真のことを教えてあげたところ、見開きいっぱいの大写真として使われることになった。

 FlickrのAdvanced Searchでは、Creative Commonsを採用している写真も結構、たくさんある。
 このCreative Commons検索が、雑誌の記事をつくるときや、Webの記事をつくるとき、そしてプレゼンテーションのスライドをつくるとき、非常に役に立つというのに、雑誌の編集者の中には、そのことに気がついていない人も多いようで、ちょっともったいない。

 もっとも、例えクリエイティブコモンズは、知っていても、いざ使おうとすると、ちょっと躊躇するところがあるのも確かだ。Joiさんの写真をMacFanに使わせてもらったときには、私もちょっとした問題に直面した。

 CNet Japanのこちらの記事で、伊藤穰一さんをインタビューした時、インタビュー前にその話題で盛り上がった:
【第3回】Mozillaによるオープンスタンダードウェブの実現-- Mozilla 24から始まる未来型インターネットの確立(前編)

 インタビューは、ちょうどMac Fanが、例の写真を使った直後だったので、最初に私の方でMac Fanに代わってお礼を伝えながら、Mac Fan掲載時のやりとりを振り返った。

 Joiさんの写真は「by」だけのライセンスなので、商用媒体でも、クレジットさえ入れれば、Joiさんに一切、連絡を取らずに勝手に写真を使っていいことになる。
 さっきのビデオでも言っているが、Creative Commonsは、作者を煩わしい許諾メールの返事から解放する、という意味もある。

 とはいえ、Joiさんのことは知っているし、何も言わずに勝手に使うのは抵抗があったし、使う前にiChatでJoiさんに「使っていいですか?」といったことを問い合わせたのだ。

 別にJoiさんも、それが煩わしい云々というわけではないが、それは「本来不要なプロセスだよね」という話になった。
 しかし、例え最初から許諾されているものでも、やはり一声かけたいというのが多くの日本人の心情だし、声をかけずに勝手に使うことには、むしろ抵抗がある。

 Creative CommonsのWebページの日本語版には、実はそこいらへんの解説。
 つまり、Creative Commonsで流用が認められている作品を、流用する場合、どのようなプロセスを経ればいいのかの解説があったほうがいいんじゃないか、とJoiさんに提案した。
 (どのようなプロセスが必要かって、プロセス=nothingで勝手に使っていいんだけれど、そのことを明記したほうが、使うほうも安心するんじゃないか、というわけだ)。

 とはいえ、それを知っている上でも、多くの日本人は、「プロセス=nothing」を経ることに抵抗や罪悪感を感じやすい。

 そこで私はCreative Commonsで公開されている作品のレポジトリーをつくって、作品をつかわせてもらったら、ブログのTrackbackのような仕組みを使って、どの媒体で使わせてもらったかといった情報や作者の人への簡単なメッセージを残せる仕組みを用意したほうが、流用する側もやりやすいんじゃないか、ということを提案させてもらった(もちろん、レポジトリーには紙媒体も登録できるようにする必要がある)。

 Joiさんも忙しい人なので、覚えていないかも知れないから、今度、Creative Commons関係のイベントがあれば、ドミニク・チェンさんにでも提案してみよう...

そうそう、この記事を書くに当たって、Creative CommonsのWebサイトを訪問したら9月27日にCreative Commons関係のセミナーが開かれるんですね!
9月27日 第6回CCJPセミナー開催

私はその前日、前々日とTHE NEW CONTEXT CONFERENCEに行くことになっているのですが、その週は書籍の仕事を一気に進めなければならない週でもあるので、残念ながらCCJPの方は行けそうにありません。

 でも、このイベント、スピーカーには津田大介さんと小寺信良さんもスピーカーで登場!
 著作権やコンテンツの未来に興味がある方は、ぜひ行くべき!

 この2人が書いた(というか対談した後で、構成を練った)書籍「CONTENT'S FUTURE」もかなりおもしろい必読本だ!

CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ (NT2X)CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ (NT2X)
小寺 信良 津田 大介

翔泳社 2007-08-02
売り上げランキング : 475

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


さて、最後に1つ問題:



投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2007年09月20日 | Permalink

  • Re: FirefoxがAppleを抜いた日


    nobiさん、こんばんは。

    今回のお題でひとつ質問があります。
    GIGAZINEがnobiさんのFirefoxセリカの写真を掲載していますが、GIGAZINEには許諾されたんですか?

    http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070919_firefox_car/

    GIGAZINEは非営利ではない(広告あり)し、今回のハナシにも出なかったのでふと気になったのです。

    投稿者名 こどー/たくひろ

  • Re: FirefoxがAppleを抜いた日


    こどー/たくひろさん

    コメントありがとうございます!おー、GIGAZINEでも紹介されたんですね。
    FlickrのコメントやFavoriteを見ていると、英語圏の人ばかりなので、
    Gen Kanai->Danny Chooあたりから一気に英語圏で広まったのかと思っていました。

    広告を入れているブログは、確かに非営利とは言いきれないしグレーなエリアですよね。

    そういわれてしまうと、このnobilog2も、大した額ではないけれどAdSenseの収入があるしーーAdSenseブートキャンプで最適化を進めれば、もうちょっといけそうな気がしていますが、それ以前に根本的なデザインのし直しをしないと... ;-)

     確かに新聞、雑誌や企業がやっている媒体が「商用」、ブログは非営利と考えてしまいがちですが、人気のあるブログならそれなりの広告売り上げもあるかも知れないし、それを「非営利」としてしまうことは、traditionalなメディアに対して不公平であるし、逆にプロのブロガーや市民ジャーナリストを軽んじる行為なのかも知れません。

     この当たりはぜひ活発に議論してみたい話題ですね。

     実はGoogleで、例の写真がどこで使われているかを何回か検索してみたのですが、情報の発信元になっているGen Kanai WeblogやDanny Chooのブログ当たりは、ちゃんとCCの規定通り、Attribution、つまり私へのクレジットを入れていますが、そのブログをみて書かれたブログ記事だと、CCの表示が継承されているわけではないので、Attributionも行われていない。

     まあ、私の場合は、「私の写真を使うからには、私の栄誉をたたえよ!」という感覚で、クレジットをのせてもらっているのではなくって、万が一、どこかのブログとかで写真を見た人が、新聞、雑誌でその写真をみかけたとしたら、おそらく日本の媒体だと9割型は私に連絡をとって写真をつかっていいかの許諾をとろうとすると思います。
     そこでクレジットが載っていないと、私をトレースすることができない、そういう理由もあって「by」のライセンスにしています。

     なので、最低「この情報はGen Kanai Weblog」で見たという、情報の発見元が入っていたり、なんだかんだいって最終的に私のflickrの写真にリンクを貼ってあればOKなんですが...

     もちろん、表示をみていない人、見てもなんのことだかわかっていない人、わかっていても「ま、いいだろう」という人は、自分でアップロードし直した写真を使ったりしてトレーサビリティーをなくしてしまう。

     この当たりを変える仕組みも、これから議論していく必要がありますよね。

    投稿者名 林 信行

  • Re: FirefoxがAppleを抜いた日


    nobiさん、こんにちは。

    >ちなみに、この話にはちょっとした後日談があるようで、NYTでもやっぱり上層部はCreative Commonsの考えがわかっていないようだ。

    たまたま観ていたSFCでの伊藤穣一氏の講演のビデオに、その後日談の事が語られていました。
    http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2007_26708/slides/11/

    投稿者名 Kawade