iPodアナログライフスタイル
この数日、月刊MacPeopleと月刊アスキーの最新号で見かけたある広告が気になっていた。
「東京表参道にUsed Mac関連の古くて新しい新感覚ギャラリーアンドアップが誕生しました」というもの。
ページの下には、パソコン雑誌では珍しい「古物商許可証」の番号が書かれている。
取材の帰り、せっかくカメラも持っていることだしと、山手線を原宿駅で途中下車、そこから千代田線に乗り換えて表参道駅へ(本来、両駅の間は歩いた方が楽しめるが、今日はその後の予定があった)。
B1出口から地上に出て、まず向かったのはNOKIAのO-partsショップ。その後、ISABURO 1889を経由してAOYAMA SPIRALの展示を覗いてから、改築中の紀伊国屋の裏(から1ブロック)にある同店を目指した。
その店はコトブキビルという、昭和の趣きを残したビルの2階にあった。
階段を2階まで上ってみたところ、まず目に飛び込んできたのがずらっと並んだPowerBook(とiBook)だった(冒頭の写真)
店に足を踏み入れ、店内を見渡すと懐かしいミッドセンチュリー('50〜'70年代)のラジオやスピーカー、アンプ、ステレオセットが目に飛び込んできた。
店主の石井健之さんの話を聞いた。 石井さんもiPodのすごさに感銘を受けた一人。ただ、パソコンショップや量販店でiPodとセットになって売っている最新スピーカーの類いにはそれほど興味がないようで、むしろ、昔懐かしい真空管アンプや舶来の木枠のスピーカーから出てくるやさしい、ぬくもりの音が好きなようだ。
なんとか、iPodの音楽をステレオセットで聴けないかと悩んでいた時、FMトランスミッターの「iTrip」に出会ったと言う。
iPodから流れるお気に入りのプレイリストをFM電波に変え、お気に入りのラジオで聴いたところ、とても暖かみのあるやさしい音が広がった。この素敵な体験を他の人達にも伝えたくて、こんな店があってもいいんじゃないかという思いがあまって、同店、「and up」の開店にこぎ着けたと言うことだった。
石井さんに頼んで、さっそくその体験を味あわさせてもらった。
まずは「すみません。真空管が暖まるまでしばらく音が出ないので」と言いながらLuxman 38の灯をともした。
中からは真空管のオレンジ色の暖かい光が漏れてきた。
「また、真空管の暖まり方によって、音が変わっちゃうんですよね」
「ええ、ええ、存じておりますとも」ーーでも、それはかれこれ数十年忘れていた体験だ。
そもそも、私はそれらの製品が現役の頃の世代ではない(と思う)。
つながれたスピーカーから流れてきた、少しだけラジオの雑音が混じった音は、最新スピーカーのようなクリアさこそなかったが、確かに最新スピーカーにはないぬくもりがある(これって音が曇っているからそう聴こえるんでしょうかね。だとしたらこれはアナログ技術だけが生み出せる超一級のオーディオエフェクトかも)。
この音は同時に、何かとても気持ちを安らげてくれる安定感と言えばいいのか、芯といえばいいのかを持っている。立体感とか、解像感とかとはまったく別次元の音のよさは、祖父母の家の暖炉の脇に置いてあった大型ラジオ、そこから流れてくる暖炉の火のようなやさしい音楽を思い出させた。
石井さんはその後も、Fostexのスピーカーや祖父母の家にあったような大型ラジオ、'60年代の映画にでも出てきそうな味わいある小型(といっても弁当箱ほどの大きさの)ラジオに電気を入れて、部屋をぬくもりのある音で包みはじめた。
iPodの曲をFM電波で飛ばすというと、これまで車内での利用しか考えていなかっただけに、その電波を古いラジオチューナーで受信して楽しむと言うのは、驚きの体験だった。
この店で流れているのは選曲もそうだが、音の味わいまでもがいい時代の風合いのまま。
わずかな違いは、同じ部屋の机に置かれたタバコ大の白い箱(iPod)がラジオ局になっていて、そこから流れてくる曲が自分のお気に入りばかりだということだ。
最新テクノロジーの結晶であるiPodを使いながらも、深みや味わいの大きいアナログライフスタイルを勧める同店、興味のある方はぜひ足を運んでみよう。
ステレオとiPod、オールドMac(といってもPowerPC搭載PowerBook)、そして石井さんがセレクトした骨董品やアートの飾られたお店は、多くの人にとって初めての体験となるはず。
P.S.それにしても店内を見渡して印象深かったのが下のB&Oのアンプ。いつのものかはわからないけれど(聞けばよかった)、洗練されたスタイルは昔から一貫していたんですね(そういえば、このアンプ、オーディオ好きの叔父が持っていたかも。かっこいいと思ったらB&Oだったんですね)。