日本が第2のホームグラウンド「永遠のソール・ライター展」

「タイトル『永遠のソール・ライター』の『永遠』に込めた意味は色々あるけれど、その一つはここ日本がソール・ライターのもう一つのホームグラウンド、という意味です」
1月9日から渋谷 東急Bunkamuraザ・ミュージアムで始まった2度目のソール・ライター展(-3/8まで)のオープニングレセプション、ソール・ライター財団マーギット・アープ理事長の言葉だ。


Bunkamura ザ・ミュージアムが3年前、初の写真展の題材にソール・ライターを選んだこと、そしてそれが写真展としては異例の8万人を動員する大成功(最終日には図録が1000冊も売れた)になったことを振り返り同美術館関係者や来場者らに深い感謝を伝えた。大成功から2年間、財団はライターの作品を整理し、さらに多くの作品などを発掘する中、嬉しい2度目の展覧会のオファーをもらったという。
今回の展覧会「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」では、2017年の展覧会以降に発掘された未整理写真の中からモノクロ、カラー写真、カラースライドを厳選し、デジタル技術を駆使して彼の創作の秘密に迫っている。
展覧会で1番の見どころは、会場の中程にある暗い部屋。発掘されたカラースライドを、まるで古き良きスライドプロジェクターで投影しているかのような映像が楽しめるインスタレーションだろう。圧倒的に引き込まれる魅力がある。
ただ映像を等間隔で映し出しているだけなのに、なぜここまで引き込まれるのか。
ライターの写真の魅力はもちろんあるが、それ以上にスライド写真が放つ、あのビビッドでありながら透明感を感じさせる美しい色合いが心を打つ。昨今の勝手に色合いを調整してしまうプロジェクターでは、なかなか見なくなってしまった繊細な色合いだ。
実はこの部屋、NTT東日本さんの素晴らしい人選で、 岸本 智也 (Tomoya Kishimoto) さんがアート・ディレクターを務めている。プロジェクターを使ったコーディネートや空間演出などを手掛ける第一人者だ。
繊細な色合いはもちろんそうだが、それに加え目だたたないよう天井スレスレに寄せているプロジェクターで投影しながら床スレスレの下端まで一切映像が甘くなることなく鮮明に映し出されていることにも驚かされたが、これらはすべて膨大な時間をかけた調整のなせるワザだと彼はいう(一番のお気に入りは一番最初の雪の写真だそうだ)。
それにしても映像が美しく、興味からどんな性能の良いプロジェクターを使っているのかを岸本さんに聞くと、実は8Kどころか4Kですらなく、普通のHDのプロジェクターだと聞いて、なおさら驚いた。大事なのはスペックではなく、ちゃんと最大の成果を引き出す微調整の連続、これぞまさにプロの仕事、と感動してしまった。
8分間、たっま60枚のスライドショーは、本展覧会。このインスタレーションは、是非、最初から最後までじっくり見ていただきたい。


話が横道に逸れたが、展覧会は2部構成。
第一部、「ソール・ライター」の世界は前回の展覧会では紹介できなかったモノクロ写真、元々の仕事であったファッションフォトグラファーとしての作品(ハーパーパザー用の写真はかなり私好み♡)、そして「カラー写真のパイオニア」と言われた彼の前回の展覧会で紹介された写真はもちろん、今回、初披露となる写真もいくつか紹介している。


第二部、「ソール・ライターの仕事場(アーカイブ)をたずねて」では、ソール・ライターが残した膨大な作品、資料アーカイブ構築に取り組むソール・ライター財団のプロジェクトを通して、ライターの実像に迫っている。
先に触れたカラースライドもその一つだが、ライターが偏愛したという小さいサイズに焼き付けたり、手で破ったりしたスニペット(小さいサイズの写真)。そこに映る家族や恋人、知人らの写真を集めてまるで展覧会の中の小展覧会のようにしてケースの中に飾っている(実は第一部にもいくつかある)。
また、ソール・ライターの創造の源泉として、セルフポートレートや、たくさんの写真が残っているデビー(妹)とソームズ(Harper’s Bazaarの仕事で知り合ったモデル)という2人の女性、さらには彼の幼少時の写真やスケッチブック、彼の愛猫の写真といったものも展示されている。
前回の展覧会や、今回の第一部後半に並ぶ、彼の日常風景を繊細に切り取ったカラー写真は、どこか今日、Instagramにあがっている写真を思わせるところがある。それを受け、東急とNTT東日本では変わりゆく渋谷の街の写真をInstagramで募集する企画も練っているようだ。
NYが大きく変化していった時代に、その中で変わらず続いていた日常を繊細に切り取ってきたソール・ライター。これからオリンピック後に向けて大きく変化していく東京で、是非とも見ておきたい展覧会の一つだ。
@ Bunkamura ザ・ミュージアム



投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2020年01月14日 | Permalink