シンプルを突き詰めることの強さ
アップル社が「App Store」を商標登録しようとしていることを受け、マイクロソフト社が「アプリケーションを扱う小売店のサービスを表す総称であり、商標登録できない」意義を申し立てている。
ITmedia: Appleが「app store」の商標申請 Microsoftが異議
Applicationを売るサービスということでApplication Store、ただ、これだと長すぎていいづらいので「App Store」ーー本質に一切、余計なモノを混ぜず、人々が口にしやすくそぎ落としたその名前にアップルの工業デザインに通じる何かを感じた。
余計なものをそぎ落とし、モノの本質に迫った究極にシンプルな形には、
競合他社を「追従者」という立場に追いやってしまう「力」がある。
例えばiPhoneのデザインを例に取ろう。
アップルが、本質をつきつめ、余計なモノをそぎ落としiPhoneをデザインしてしまったことで、
それに追従する現行Android製品の大半は「余計なボタンが付け加わったiPhone 3G/3GS」にしか見えなくなってしまっている。
キーボードを加えた製品でこそ、なんとか独自性を保てているが、他の端末の多くは、そもそも自分たちのカタチを追求する努力すら放棄してしまっているのではないか、と感じさせる製品も多い(それを通り越して、iPhoneと誤解して買ってくれるのを期待しているのだとすれば、ある意味、それは凄い)。
なお、見た目のカタチだけの点で言えばソニーはさすがで、自分たちのカタチを確立しようとしている印象がある(本体の上に電源アダプターを指す仕様で妥協してしまった点や性能バランスで見ると、個人的に受け入れがたいが)。
「デザイン」という言葉を出すと、世の中には「狭義」で「コスメティック」つまり本質に関係ない装飾の付加を指すと誤解している人もいるが、
私はその正反対で、「デザイン」をやや広すぎる意味、つまり、「頭をひねって生み出すもの=デザイン」くらいの意味で捉えている。
例えば、私にとっては、
iPhoneのCMも、高級感漂う化粧箱に入れられてApple直営店を含む小売店の棚にきれいに並べられていることも、マニュアルと呼べるモノが、薄っぺらい1枚紙しか入っていないこともデザインだと捉えているし、iPhoneのアプリケーションがAppStoreからしか購入できないこともデザインの一環だと考えている。
顧客が製品を発見し、出会い、深く知り、使い込み、愛情を深める、といった体験のデザインであり、iTunesから買ったお気に入りコンテンツ、AppStoreから買ったお気に入りのアプリケーションが大量にあるから、再びiPhoneを買おうというライフサイクルのデザインだ。
この点に置いても、Androidの状況は、ちょっとふがいない。
せっかく、Androidそのものはオープンソースであるにも関わらず、中国のoPhoneを除くと、ただGoogleが提示した参考用の機材に沿った製品を、Googleが描いた参考用の生態系の中で流通させているだけで、大きなイノベーションを感じさせない。
しかも、つくった製品を売る方の側が「足して差別化」する方法論しか知らないので、AndroidというそうでなくてもiPhoneと比べると、コンシューマー向けのブラシュアップが足りなく複雑怪奇な製品に、最初から余計なアプリケーションを満載し、そのアプリケーションの機能の多さで勝負しようとしてしまっている印象がある。
最初、Android端末でありながら、あえて電子書籍端末と言い張り、アプリケーションのインストールなどに触れずにいたGALAGAPOSには個人的に期待を寄せていたが、今では機能の(質より)量で売ろうという今のAndroid戦略の間違った作戦に、飲まれてしまい最初から余計なアプリケーションだらけの、他のAndroidと一緒の没個性スマートフォンになってしまったようで残念だ(というか、中でわかって当初のメッセージを発している人がいるとしたら、その人が可哀想でならない)。
何より心配なのは、間違ってそんな作られ方、売られ方をしている端末を買ってしまった「機械が苦手」な人は「なんだか、スマートフォンって難しい」という悪い第一印象だけを抱いてしまうのではないかと心配だ(「機械が苦手」は、その人が悪いのではなく、普通のことであり、機械の方が人間にあわせて簡単にばるべきと言うのが私の考えだ)。
こうした悪い体験のせいで、今後、日本のメーカーの頼みの綱で、1〜2年後が勝負のAndroidを買う頃には、すっかり悪い印象ができあがって近寄らなくなってしまっているんじゃないか、そこもかなり心配な部分だ。
日本の企業には、メーカーにも、IT系の企業にも、表層的な余計なフリルをつけてごまかすのとは正反対のアプローチを学んで欲しい。
余計なものをそぎ落とし、その分、本質の機能のブラシュアップに努める姿勢の重要さを経営層にも、マーケティングの人間にも、つくる現場の人々にも認識して欲しい。
自分が本領を発揮できない余計なモノを追加すれば、追加するだけ、無理矢理付け加えたモノの質の低さのせいで、製品そのモノの印象が悪くなる可能性も十分あるのだ。
これに対して、本質の部分のブラシュアップは、将来の後継製品づくりにも、必ず貢献してくれる。
アップルから一番、学ぶべきことは「タッチパネルのスマートフォンが売れ筋」でも「彼らがどんなカタチの製品に仕上げたか」ということでもなく、彼らがその製品の体験やライフサイクルにおいて、どこまで本質的なデザインをしたかの1点に尽きる。
私の著書のiPhoneショック。iPhoneについて知る本としては古すぎて(日本での発売開始前)、およそオススメできないが、アップルに対抗するものづくりの提言としては、今読んでもらってもいいかもしれない。
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アップル流ものづくりについては、こちらの本でも述べている:
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あまり、本を読まないので知らないが、他にもビジネスにおける広義のデザインの重要性を説いている本があれば、コメント欄で教えて欲しい。
定番だと、この辺りだろうか:
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