そして事件は起きた
だが、今回の失敗には悪意が介在する。そう私の純粋な失敗と言うよりはむしろ事件であり犯行、睡眠不足とはいえ、そのよくある手口にまんまとひっかかったことが失敗だった。
'85年に300bpsモデムでパソコン通信を始めた頃から「なりすまし」はよくあるネット犯罪の1つ。
自分では絶対にひっかからないという自信があったし、普段なら絶対に引っかからないはずなのだが、人間誰しも弱っているときがあり、そこに別の要因がからむと、ありえないことがおこると学ばされた。
日曜日から8日ほどヨーロッパの取材に出る。実は今はその前準備、特に日本にいる間しかできない仕事をなんとか終わらせようと、忙しい日々が続いている。そう言う時に限って、忙しさが忙しさを呼び、かなり、睡眠不足の状況にもおちいっていた。
疲れがかなりピークに達していた頃、AOLのカスタマーセンターからメールが来た。英語のメールだ。普通の人だったら、この段階で「おかしい」と思うだろうが、私に取っては自然なこと。
実は'80年代AOLがまだMacのサービスしかしていなかった時代からAOLのアカウントを持っており、これを捨てたくない。AOLが日本でサービスが始めた時、同じアカウントで再登録できないかと聞いたところ断られたので、実はそのままアメリカのアカウントを使い続けている。AOLのメールサービスそのものはジャンクメールだらけなので、問題があったときはメインのメールアドレスでやりとりをしていた。
メールでは、利用料の引き落としができないと書かれていた。AOLカスタマーセンターを装った詐欺は実に多く、Instant Messagingを使ったチャットでの詐欺なども多い。一度、私にも「あなたが本人かどうか確認する必要がある、IDとパスワードを教えてくれ」というようなチャットをしかけてきたやつがいたので、しばらく、いろいろチャットしてはなしを引き延ばしながら、カスタマーサポートに通報したこともある。
今回、この多発するAOL詐欺にまんまとひっかかったことについて、以下の2つのいいわけをさせて欲しい:
- 実は先月、クレジットカード番号が変わったばかり。この詐欺メールの2日前、実はちょうどAOLのクレジットカード情報を更新したのだが、最後にエラーが出て、確認すると更新されているようだけれど、なにかすっきりしないところがあった。実際、こちら側からAOLカスタマーセンターに問い合わせをしようと思っていた。
- 徹夜続きで判断力が鈍っていた(にも関わらず、実はその日は結構飲んでいた。といってもビール×2、サワー×2だけれど)
そのメール、落ち着いて頭も回転している今見ればおかしなことだらけ。飛ばされたリンク先も今、よくみるとhttp://support-aol.info/index.phpというインチキだった。しかし、こちらは「カスタマーセンターに問い合わせをしないで済んだ。さっさと済ませてしまおう」くらいの気持ちで頭をOFFにした状態でクレジットカード情報を入力していた。
実は今朝方、ほぼ同じ文面のメールが届き、ここで初めて「あれ?」と思った。でも、最後に寝てから48時間くらい経っていたので、そのまま流してしまっていた。朝7〜8時頃寝たのだが、それから数時間午前11時頃、UCカードから連絡があり米国で500ドルのトランザクションが3回あったと言う。
この段階でそれまでの数十時間のできごとが頭の中を走馬灯のようにかけめぐった。
カード会社に詳細を伝え、カードは再発行することになった。
日曜からのヨーロッパ出発前の発行は間に合わないので、限度額が小さなカード1枚で旅立つことになった。
現地での移動手段、宿泊先、イベント登録はすべてクレジットカードが身分証明+支払い手段となっていて、これが引き金で他の問題が発生する可能性もかなり大きい。しかし、そのあたりUCカードに相談したところある秘策を教えてくれたので、それでなんとか頑張ろうと思う。
それにしても、まったく悔しくてならない。
今朝方届いた詐欺メールの2通目は、その時点でまだリンク先が生きていた(1通目のリンク先、上のURLはこの時点で閉鎖されていた)。そこでFBIと関連があるInternet Fraud Complaint Centerに報告したーーけれど、ここ苦情を聞くだけかも。
さて、被害にあった私はインターネットでの買い物をやめるか?
おそらく、もはやこの便利さに慣れてしまった以上、それはないと思う。こういう目に遭うのは便利さを強く求めすぎた代償という人もいるかもしれないが、本当に悪いのは犯罪者だ。なんとか、悪いことに手を染めようという発想をこの世から消したいものだ。
SPAMにしても、詐欺にしてもどうしてこんなことを思いつき実行してしまうのか、やっていて少し自分で恥ずかしいと思わないのか、少しかわいそうにすら思えてくる。
今回の犯人はあきらかにアメリカ在住者だが、日本も安心できない(という不安感が、さらに犯罪を呼び起こしそうなので、過剰にあおりたくはないが)。義理の弟も、昨年、オレオレ詐欺の被害に遭っている。
と、いってもお金を取られたわけではない。ある日、勤め先の(ちょっとは世間でも知られ信頼がある会社の)上司に呼びつけられ、「お前が〜〜さんの息子を誘拐したという報告がある」と言われた。犯人が彼の名刺の情報を使って、オレオレ詐欺を働いたらしい。
犯行がバレないかと日々おびえながら日陰で暮らす人達、そんな人を生み出さないように、何か根源的な対策は編み出せないものか。そんなことができたら戦争だって止められそうな気がする。
「目には目を」、「罪に重い罰を」の中には答えがない気がする。事態は悪化するだけだろう。
心の奥底のどこかで信頼を裏切るような人達を戒める方法のヒントは、むしろその人達への信頼(あるいはその人達の心の奥底にある良心、本心への信頼)の中にこそあるのではないかと思っている。
「ボウリング・フォー・コロンバイン」のカナダを取材しているシーンでも、もう1度見ながらじっくり考えるか...