セカイカメラ、世界デビュー

Sekai Camera World Premiere

ついに世界デビューを果たした「セカイカメラ」、2日前にTechCrunchのSerkan Totoと一緒に取材をして、すぐにブログに記事を書くはずが、古川享さんからのメールで予定変更に...

家路への電車を途中で進路変更し、六本木ヒルズへ「未踏プロジェクト」の成果発表会を聞きにいくことになりました。こちらでもセカイカメラに負けないくらい、世界を変えるかもしれない、新しい文化を生み出すかもしれない素晴らしい成果がいくつか発表されていて面白かったです(後述します)。

でも、まずは「セカイカメラ」、(現実)世界デビューの紹介から。
「Rooms」という招待制のファッションイベントでSoftbank Telecomのバックアップの下、
華々しくデビューした「セカイカメラ」の様子は、既にテレビニュースでも報道されているので(YouTubeで検索してみてください)、
そちらを見た人も大勢いるかもしれない。

どんなものか知らない人は、百聞は一見に如かずで、まずはモノを見てもらうのが早いので、こちらのビデオを見て欲しい:


iPhoneのカメラを通して周囲の世界を見渡すと、そこに他の人が書いた書き置きのコメントや記念写真、音声のメッセージなどがエアタグとして表示される。
そんな夢のシステムだ。

TechCrunch 50で発表された当初は、多くの賞賛を浴びる一方で、
今のiPhoneでそんなものができるわけがない、といった批判もたくさん浴びせられた。
しかし、世の中、どんなことも「できない」と言ってしまえば、そこでおしまいだ。

「やりたい」と「どうやったら、できそうか」をうまくつなぎあわせて、初めてイノベーションが生まれる。

2001年に最初のMac OS Xが出たときも、「ひどいOS、これでMacはオシマイだ」だとか、
散々、酷評されたが、結果としてそのMac OS Xが、新しい開発コミュニティーをMacに取り込み、Macを復活させ、iPhoneまで誕生させることになる。

誰かが会議室で「不可能」といったからやめてしまうのでは、一介のコンピューターメーカーであるアップル社が音楽販売ビジネスに乗り出す、といったこともなかっただろう。しかし、アップルは「不可能」とは考えずに、「どうやったら可能になるか」を考えた。だからこそ、今、米国でもっとも多くの楽曲を売っているNo.1の音楽販売会社になりえたのだ。

今の日本は、私と同年代の中間管理職が、ただ議事録に「会議に出席しました」という記録を残すためだけにいっているような考えのない寸評や匿名掲示板やユーザー名の影に隠れてブックマークに書き残される、安全な場所からの一切の責任を取らない論評攻撃によって殺されている気がしてならないので、つい脱線してしまった。

Sekai Camera World Premiere

 さて、Roomsというファッション系イベントでデビューしたセカイカメラの最初のバージョンは、
VAIO type Pなどでも採用されている、「PlaceEngine」の技術を使って半径5メートルほどの精度で位置を特定し、その位置に関係するエアタグを、(iPhoneに電子コンパス機能がないので)まずは方位無関係で表示し、向きは指でフリック操作をして手動で合わせる、というシンプルなしくみ。
(その代わり、向き合わせ用のランドマークをたくさん登録した、ランドマークレイヤーを用意しようとしているようだ)

開発者のトンチ・ドット、井口氏も、決してこれで満足しているわけではなく、「今回、見せたセカイカメラでは、まだ本格的にやりたいことの3%しか実現していない」ことや、「Android上で動いている試作版は、電子コンパスを使って位置合わせもちゃんとできていること」を語っていた。

まもなく、暖かくなる頃までに最初のバージョンがリリースされれば、
それがきっかけで、新たな問題点も発見されれば、「こんなこともやりたい」という新たな目標もでてくるはずだ。
そうやって、まずはモノを出しては、さらにそこから開発が進む。
これこそがWeb 2.0時代の開発の特徴でもある「Perpetual Beta(永遠のベータ)」の基本コンセプトであり「セカイカメラ」も、まさにそれを実践してくつもりだという。




ちなみに、日本ではiPhoneコミュニティーにしか知られていなかったセカイカメラだが、
フランスではTwitterなどと並んで「NetExplorateur 10 2009(世界を変革する10のインターネット技術)」の1つに選ばれている(ちなみにTwitterが、どれほど革新的なものに変わったかについても、別の機会に紹介したいが、私のブログの更新ペースが遅くて、待てない人は、こちらの記事を参照して欲しい)。

さて、未踏の成果発表についても簡単に書こう(あと1時間で外出。明日は講演、月曜日も講演、週末は、書き物の仕事があるので、またしばらく更新が止まりそうだ):
未踏成果発表会
すべてを紹介することはできないので、あえて1つだけ紹介するとしたら、
やはり、ヒイキにしてしまって、他の方には申し訳ないけれど、ドミニク・チェン氏らDividualの取り組みが素晴らしい。

彼らは「TypeTrace」を発展させ、掲示板をつくったり、SNSをつくったりといったこともやってきており、それに加えて「ヘコむを楽しむ リグレト」というサイトや一度しか読むことができない、メッセージングサービスの「うつつ」など、さまざまなサービスを開発し、使われ方を研究したりビジネスモデルの模索してきた。
(ちなみにTypeTraceは、先週末まで開催されていた、文化庁メディア芸術祭にも出展していた)。

TypeTrace


彼らの取り組みは、これまであまりに左脳的、集約的そして過密化傾向が強く、ぶかっこうで、ぶさいくで、美しさとか潔さを軽視にしてきたIT/デジタルの世界に、何か失われていた価値観を取り戻してくれるような感じがする。そして彼らこそが、これから我々が真剣に考えなければならない「人々を本当に豊かにするIT」の中核にいる気がしてならない。

 ちなみに、質疑応答で、「うつつ」について、何回読んだら消えるとか、いついつになったら消えるといった他の条件も加えた方がいいんじゃないか、という意見があったが、私は1回限りだからこそ、美しいんだと思う。
 デジタルテクノロジーは、デジカメにしても容量があるだけ、何枚でも取れるし、文章も〆切ギリギリまで何度も何度もUndoやコピー/ペーストができるという点で、便利であると同時に、人々から潔さを奪ってしまった気がしてならず、それ故に、一瞬をシャッターでとらえるときの覚悟や、1行を書くときの緊張感といったものまで奪われてしまったような気がする。

 それだけに、書き手と読み手が、同じ長さの時間を共有できるTypeTraceや、一生に一度きりの言葉のやりとりを可能にした「うつつ」などには、何か心の底から感じ入るものがある。

 未踏の成果発表では、この他にも、文章へのコメント/注釈を管理する新しい手段や、陰影のついた仮想の立体物を現実世界にマッピング表示するAR(拡張現実技術ー>セカイカメラと組んだら面白そう)そして紙、Web、ケータイを使ったアンケート結果を一手に集計してくれる技術なども紹介された。

 セカイカメラと未踏の成果発表、この2つを同じ日に見た衝撃は大きい。

 ちなみに、未踏取材中のTwitterメモはこちらから。

 なんだか日本から世界を変えられるんじゃないか、という思いが再びこみ上げてきた。

P.S.こんなギリギリで書かれても、困るだけだろうが、セカイカメラのデモは本日20日の夕方5時までで終了で、次に見れるのは今月末にパリで開かれるMarketing 2.0というイベントになってしまう。まだ見ていないプレスは、今すぐパソコンを閉じて原宿に向かった方がいい。私は、今日、これからもう1度、動画を撮りにいく予定です。

P.S.2. DANBOさんが見つけてくれた、この「Summizer - Twitter Trend SearchSummizer - Twitter Trend Search」を使うと、Twitterを通して、今、この瞬間に世界で何が話題になっているかがわかる。でも、DANBOさん、私がAUGM 大分で紹介した「KATANAKATANA」アプリはAPPLIYAのものですよ!

もう1つ、「セカイカメラ」のリリースが待てない人は、「MemoryTree」というアプリケーションでも、写真を場所に残すことができます。拡張現実(AR)系のアプリケーションではないけれど、インタラクティブアートとかが好きな人は、絶対に気に入ります。AUGM大分に行く途中、ホバークラフトの上から大分湾の海上に写真の置き物をしてきました。よかったら捕まえてみてください(もっとも、揺れが激しかったので、写真を残すのに失敗したかも...恵比寿とか六本木当たりにもいっぱい写真の書き置きを残しています。):MemoryTreememory tree

投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2009年02月19日 | Permalink