iPhoneについて誤解してはならない2つのポイント
最近は毎日のように外出し、いろいろな方と話しをする。
過去4日(土日除く)にちょうど10件の用事があったが
(カジュアルまたはカジュアルを装った飲み会は除く)
そのうちの7割はiPhone絡みだ。
内訳は5件がメディア(取材を受ける2+記事打ち合わせ3)。
1件は講演打ち合わせ。1件はiPhoneに関係してビジネスをしたい企業とのミーティング。
そうやって話をしていると、過去にMac関係をずっと追ってきた人と、そうでない人とで、
やはりiPhoneに対する理解にも大きな差異があることを実感する。
メディアに近い人はまだいろいろな記事を読んだりと研究しているからわかっていることが多いが、
キャリアに近い人なんかにとっては、
iPhoneは(準備期間は長かったにも関わらず)突然、降って湧いた話しという印象があるのか、
なかなか製品コンセプトが理解されきれていない。
(初代iPhoneに触る機会がなかったこともあるのだろう)
どのレベルの人達までがそうなのか、わからないが、
そのままの発想でいると、今後、それが元でアップルとの衝突も増えると思うので、
特に多い誤解2つについてだけ、指摘をできればと思う。
誤解1.iPhone 3Gは店舗でアクティベートするのでパソコンは不要
誤解2.iPhoneを買った人は、みんなソフトバンク提供のメールアドレスを使うことになる
【この部分、最初は「S!メール」と書いていましたが、mixi上で指摘をもらったので修正しました。iPhoneではSメールは使えません】
まずは誤解1についてだが、これはiPhoneのそもそもの製品コンセプトに反する。
iPhoneは買って約20〜30分のActivation+同期操作の後には、
まるで数年来のつきあいがあったかのように自分のことをよく知っているのがなんといっても大きな魅力となっている。
初代iPhoneは、店頭で箱買いしたものを持ち帰り、
iPodのように、まずはパソコンにつないで初期設定をする。
ここでactivationという作業をして、クレジットカードの番号などを入れると、
携帯の番号の割り当てなどが表示され、電話として「開通」するわけだ。
「開通」のすぐ後には自動的にパソコンとの同期が始まる。
ここでパソコンに入れていた電子メールのアカウント情報、連絡先情報、予定、写真、Webブラウザのブックマークといった情報がすべてiPhoneに入る。
つまり、開通して数分後には、パソコンと同様に電子メールが受信できて、2年前に入力した友達の住所も、明後日の予定も、5年前の旅行の写真も、そして毎日巡回するWebページのURLもiPhoneが知っている。
多くの人は、開通した後のiPhoneをパソコンから切り離して手に持ち、
上の事実を実感したときに、初めて、その製品コンセプトの凄さに「シビレ」てしまう。
「おー、これ凄い。ちゃんと俺が開こうとしているWebページのURLがブックマークされているよ!」と。
もっとも、ここまではiPhone 2G(初代iPhone)の話しだ。
それではiPhone 3Gはどうなのだろう?
iPhone 3Gでは(まだ公式な情報は少ないが)、
米国at&t社でも、日本でも「開通」作業はソフトバンクモバイルの店舗で行うことになりそうだ(*1)。
つまり、iPhone 3Gが、自宅のパソコンと「同期」する前から使える可能性がある。
しかし、だからといって製品コンセプトは簡単には変わらない。
やはりiPhone 3Gも、パソコンと同期をして使うのが前提の携帯電話だ。
ソフトバンクモバイルは「iPhoneはパソコンと同期して使う製品だ」ということを顧客に念押ししなければならない。
実はこの点は、アップル社が昨日、米国で公開した「Guided Tour」のビデオでもしっかり明言している。
(最近、製品発売の1週間半前にGuided Tourビデオの公開をするのが、メソッド化してきた。実にうまいマーケティング戦略で、見ていると確実に欲しくなる。ちなみにビデオで解説をしているのは、ITmediaの記事でインタビューをしたiPhoneプロダクトマーケティング担当のシニアディレクターであるボブ・ボーチャーズ氏。落ち着いた低い声が、再春館製薬のCMを連想させる)。
ちょうど3分6秒のところで
「Because iPhone automatically sync's with the address book you use on your PC or Mac, you have all of your contacts, phone numbers, street addresses, e-mail addressses and more wherever you go.」
「iPhoneはあなたが使っているPCやMacのアドレス帳と自動的に同期をする。だから、どこへいくときもすべての連絡先、電話番号、住所、電子メールアドレスなどを持ち歩けるのだ。」と語っている。
日本の会社では、「そうはいっても、顧客が増えるなら」とポリシーをねじ曲げることもあるが、
アップルはそういう会社ではなく、こうした公式の資料で、一度「こうだ!」といったものは、
次の公式の「場」で、「我々は方針を変えた」、「我々は間違っていた」、「take 2」なんていう言葉がでてこない限り、なかなか変えることはない。
同期して使うから、必要以上に余計なアドレスまで入れておくことができる。
それを1文字タイプするごとに候補が絞り込まれていく、便利な入力インターフェースで、使うのがiPhoneの醍醐味だ。
上のことを知らずに、パソコンが持っていない人がiPhoneを買ってしまうと、
一気に「iPhone=使いづらい」という印象を広めかねない。
なぜかは、落ち着いて考えれば、簡単にわかる。
iPhoneのキーボードで、100件の住所や、100件のURLを打ち込むことを想像すればいい。
別にiPhoneのキーボードが使いづらいといいたいのではない。Blackberryのキーボードを想像してもらっても、EM-ONEのキーボードを想像してもらってもいい。
ソフトのキーボードだろうと、ハードのキーボードだろうと、
小さいキーボードとパソコンが持っているフルサイズのキーボードとでは入力の快適さがぜんぜん違うのだ(また画面の大きさの違いも、入力しやすさに大きな違いを生み出す)。
パソコンを持っていない人が、iPhoneを買ってしまったら、
「iPhone買ったけれどさ、これまでの携帯からのアドレス帳の転送もできないし[←想像]、全部、自分で打ち込み直さなきゃならなくて、しかも、キーボード小さいから打ち込みにくいのなんのって...」という意見がそこかしこに書き込まれてしまい、せっかく築いた「顧客満足度90%」が、ガタガタと音を立てて崩れていくことになる。
これは譲ってはならない一線だ。
世の中は多様だから面白い。
すべての人を満足させる記事はなければ、
すべての人を満足させる商品もない。
iPhoneも、とりあえずは世界の1%。
パソコンを持っている人だけを対象にした満足度90%の携帯であって、
すべての人を対象にした、満足度50%の携帯ではないのだ。
だから、アップルの製品はあえて顧客を選ぶのだ。
ここはソフトバンクモバイルの方も、再春館製薬所よろしく、
お客様が納得してからしか売らない、スタンスを貫いて欲しい。
(そもそもソフトバンクは、パソコンを持っていない人用にも、
「インターネットマシン」をはじめ、かなり満足してもらえる端末を揃えているはずだ)。
こうした話しは、発売日に行列をつくって並ぶ人は誤解していないだろうが、
夏の後半以降(←勘です)、iPhoneがもっと潤沢に手に入るようになった頃から、
誤解したまま店頭で並ぶ人が増えてくるのが目に見えているが、
ぜひ、まずは「お客様、パソコンは何をお使いですか?」と聞くなどして対応して欲しい。
つづいて誤解2について。
iPhoneの人は、もしかしたら、ソフトバンクの都合で、新たに「××××@i.softbank.jp」のアドレスのメールがもらえるのかもしれない。
でも、それを使っていたのでは、iPhoneの本当の魅力は実感できない。
【この部分、mixiで指摘をもらったので、直しました。S!メールではないですね】
iPhoneは、最初の同期時に、自動的にパソコンで使っている電子メールアカウントが設定される。
このため「開通」の数分後には、パソコンで受信するのと、まったく同じメールが受信できるようになり、そのことこそが「魅力」となっている。
これまで、わざわざパソコンの置いてある部屋に行かなければ見れなかった電子メールが、
ポケットから出したiPhoneで見れるので、
夕食の後、より長い時間をダイニングで家族との会話に費やすことができ、
わざわざメール1本打つために帰社せずに、電車の中から取引先にメールを書いてしまえるからこそ凄いのだ。
それを、「これが私のiPhoneでの新しいメールアドレスです」と「××××@i.softbank.jp」のメールのアドレスを新たに教えて、余計なメールアドレスを増やしたところで、何も便利にならない。
無料でもらえるアドレスなのだから、ありがたくもらっておいて、うまく使い分ける方法はあるだろう。
だが、メインはあくまでも、
これまでの取引先や、昨年の同窓会の案内が送られてきたパソコンで既に使っているメールアドレスの方だ。
誤解1について、もう少し書くと、実はアップルも、どこかでiPhoneを、一般の顧客に売ることも考えているのではないかと考えていると思う。
せっかく、社名から「Computer」を取ったのだから、当然の戦略だ。
パソコンとiPhoneをケーブル接続で同期する頻度を、圧倒的に減らしてしまいそうな「MobileMe」は、そういう時代に向けた大きな一歩といえよう。
だが、どのタイミングで、非パソコンユーザーを顧客とするかを決めるのは、製品のコンセプトをつくるアップルの仕事であって、その端末を提供するキャリアの仕事ではない。
*1)本当は、ユーザーインターフェースをよくすれば、ユーザー個人でも「開通」作業ができてしまう、という凄さを体験して欲しいところなのだが。そこは、ぜひお店の人に、「開通」作業中に「iPhoneって、他の携帯に比べて開通も簡単なんですか?」などとインタビューしてみて欲しい。
最後に宣伝になるが、こうしたiPhoneの基本コンセプトを、もう1度、しっかり理解したいという人には、
拙著「iPhoneショック 」を触りの部分だけでいいので、読んでもらえればと思う。
大半はモノヅクリの仕事、クリエイティブな仕事をしている人に当てた内容なので、自分は違うから買いたくない、という人は立ち読みでもいい。
また、同著の元にもなっているITproでの連載「iPhoneの衝撃」も無料で読める。
こちらの連載は、まもなくシリーズ第3弾(Season 3!?)がスタート予定だ。
また本文中で紹介したボーチャーズ氏のインタビューも参照して欲しい:
「iPhone 3Gは最良の体験をめざして進化した」――iPhone/MobileMe担当者インタビュー
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