YouTube日本版事業説明会に思う

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一昨日、YouTube日本版の事業説明会が行われた。会見の基本的な内容については、既にさまざまなWebニュースサイトで報じられている:

(アルファベット順)

  1. ascii.jp:「自主的にチェックして落とす、正しいようで正しくない
  2. Broadband Watch: 「YouTube日本語版の事業説明会。パートナー提携や著作権対策を重視
  3. CNet Japan:「YouTube、日本版の事業戦略を発表--ミクシィや吉本らもパートナーに
  4. ITmedia:「YouTubeが日本戦略加速 成功のカギは「パートナー」


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私が、この説明会を感じたことが2つある。

 1つは、YouTubeの波を利用して、マイナーなメディアとメジャーなメディアの逆転現象が起きたらおもしろい、ということ。

 これらの記事でもわかるように、この日はパートナーによるスピーチもあったが、実は私が一番注目したのが東京MX TV。東京ローカルのUHFチャンネルだ。
 実は同局では以前からBlog TVなど、一部のコンテンツをYouTubeに掲載している。

 先日、そのBlog TVに出ているFumiさんと「YouTubeに掲載されている動画を見て、海外の人は「東京MX」が「BBC」などと並ぶ、メジャーテレビ局だと思っているかも知れない」という話をしていた。

 何せ局の名前が「東京メトロポリタンテレビジョン」だ。なんとも国際的な感じではないか。
 おまけにそこの番組が、日本のIT業界の最先端の情報を伝えている。さすが最先端を行く東京のテレビ、という感じがするではないか。
 YouTubeで東京MXの動画を見ている海外の人々は、東京MXは知っていても、NHKやいわゆる民放キー局は知らない可能性もある。

 そうしたことを考えながら見ていると、事業説明会での東京MX取締役技術局長の田沼純氏の話がおもしろく聞こえてきた。
 田沼氏は「インディーズ・アーティストの作品を映像の契約がクリアになっているものから順次YouTubeにアップしていく」というスライドを掲げていたが、それに加えて「YouTubeにも動画を出してくれるのなら、ぜひ東京MXに出たい」と言って声をかけてくるアーティストも今後、増えてくるかも知れない、と言っていた。
 東京MXに行けば、ちゃんとしたテレビ用の機材で取材してくれるのに加え、そうしてできあがった番組を首都圏だけでなく、世界に向けて発信してくれるわけだ。
 日本語人口(1億2600万人)と英語人口(9億人規模)の違いは今更、比較するまでもないが、YouTubeにしても日本は世界で2番目に利用者が多いかも知れないが、それ以外の国から利用している人の合計はもっと多い。

TOKYO MX TV

 よく海外にはGoogleのAdSenseでものすごい収入を得ているという人の話を聞く。実際、私のブログも、こちらの日本語のブログよりも英語のブログ(nobilog)の方が更新していないにも関わらず売り上げが大きかった。
 しかし、それは別に海外のGoogle AdSenseのワンクリックあたりの売り上げが大きいわけではなく、英語で書いた記事の方が、単純に読む人(毎回読みに来る人や、他のブログからのリンクで読みに来る人、そして検索で読みに来る人)の合計数が圧倒的に多いだけのことだ(ちなみに、その後、AdSenseの配置を最適化したことで、現在ではnobilog2の広告収入の方が上回っている)。
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事業説明会を見て、もう1つ思ったのは、
もしかしたらJASRACら著作権団体は、ゴネ続けることによって、自らの首を絞めたかも知れない、ということ。

YouTubeは、今後、著作権管理のための指紋技術を開発し利用していく、と言う。
この指紋技術が、今後、洗練されていき実用レベルになったら。つまり、アップロードされた動画や音声の中に、著作権に違反して再利用しているコンテンツを自動的に認識してくれるようなエンジンが完成したとしよう。
 このエンジンは最初のうちはYouTubeでしか使われないが、将来、YouTube以外のWebサイトに違法コンテンツがないかを検索する、海賊版検索エンジンに発展させることだってできるかも知れない。
 そうなったとき、果たして世の中に著作権管理団体が必要なのだろうか、というのが私の考えだ。

 結局のところ、著作権管理団体が必要になったのは、コンテンツ事業者1社1社が、違法コピーのコンテンツを探して回る余力がなかったから。しかし、指紋技術で、この作業の手間が大幅に軽減されれば、そうした管理団体は「中抜き」して、コンテンツ提供会社の側で独自に著作権を管理することも可能になるかも知れない(もちろん、ライブハウスやカラオケ店の違反を検索できるようになるのは、さらに先のことになるかも知れないが...)

 この技術革新の先にあるのは、Creative Commonsでも目指しているコンテンツの中への著作権情報の組み込みだろう。
 一切、引用ができないコンテンツには「All rights reserved」を、プロモーション目的で、どんどん引用して欲しい情報には、そうした著作権情報を、特定の国や地域でしか再生してはいけないコンテンツには、そうした情報を、といった具合になっていけば、コンテンツの流通を活性化しつつ、著作権もこれまで以上に守られる世の中に向かっての大きな前進になるかも知れない。

投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2007年08月04日 | Permalink