Nikonnextは是か非か
最近、私がWebや雑誌に書いた記事を見た人(特にiPad関係の記事を見た人)は「機材協力:Nikonnext.com」の文字を目にしているはず。
「ニコン」なら知っているけど「ニコンネクスト」? これ一体何かと疑問に思っている人もいるだろう。
百聞は一見にしかず。 この記事を「あとで読む」にするくらいなら、 ぜひ記事は読まなくていいから、Nikonnext.comを覗いてみて欲しい。
「Nikonnext.com」は、ニコンが運営しているWeb上のフォトギャラリーのサイト。 Web上のギャラリーなのに、現実にある写真美術館のようにあなたをリフレッシュしてくれる。
私がこのサイトを知ったのは、不純な理由がきっかけだ。 iPadの取材で、急いでカメラ機材を調達しようとしていたとき。 たまたまニコン関係の仕事をしている知り合いから、カメラの提供を受けられるかも、と連絡をもらった。 てっきりニコンのカメラのプロモーション関係の人が貸してくれるのかと思ったら、違っていた。 私も初耳のNikonnextという事業をやっている人から機材を貸してもらった。 せっかくなので、記事に協力のクレジットを入れると提案させてもらった。
既に機材は返却し、一応、クレジットを入れるノルマは果たしたが、よく考えたらクレジット入れるだけで、ぜんぜん、なんのサイトかフォローの説明をしていない。
実は最近、夜中仕事に行き詰まると、このサイトで息抜きをしている(BGM的につかっているという噂も...汗)ので、この機会に紹介しよう。
なお、あわただしくカメラの受け渡し時もじっくり話せていないので、もし、コンセプトなど誤解したまま紹介していたらゴメンなさい ;-)
Nikonnext、私が最初に見たときの感想は、 いい意味でも、悪い意味でもとんでもないサイトというもの。
何が、とんでもないのか?
機材を借りておいて「とんでもない」っていうのも、ちょっと失礼かもしれないが、 急にFlashで(なのでiPhoneから見れないのもとんでもない)静かな音楽と、それにシンクロした優美な写真のスライドショーが始まるのだが、その雰囲気が(いい意味で)とんでもない。 アクセスするといきなりWebブラウザが全画面表示になって視界をNikonnextで埋めてしまうのもとんでもない。ちなみに、これは最初は昔のFlashサイトみたいで、悪い意味でとんでもない、と思っていたのだが、もしかしたら、これでいいのかもと思えてきている(後述)
なんだか仕事がはかどらなくって焦っている。でも、こちらの仕事を待っているはずの仕事相手からメールの返事もこないので、エイヤで、ここはちょっと気分転換して、美術館でも覗きに行こうーーNikonnextでは、まさに、そんな感じのリフレッシュがWebブラウザからできてしまう(要するにそれだけ、いいリフレッシュになる、といいたい)。
展示されているの写真の質も(いい意味で)とんでもなければ、 操作性も(もしかしたら悪い意味で)とんでもない。
「俺、こういう写真、好き。さっそくTwitterで共有しよう」と思っても、 実はNikonnext.comで見ている作品に直接リンクをすることができない。 だから、写真を共有できないのだ。 誰もが同じように入り口から入って、同じ経路を歩まないとたどり着けない。
例えば私はfeatured artistの1人、NAMのところに行って、左に4ついったところのピンクの紙きれがいっぱい女性に吹き付けられている作品が好き、といったように英数字のアドレスの変わりに言葉で場所を説明しなければならない。
昨今、SEOだ、バイラル効果だ、といったことが言われるが、そういったことは一切無視の姿勢。
これって、なんだか、サイトプロモーションに不器用で、悪い意味でとんでもないのかな、と思っていたが、そのうち、その不器用さというか、不自由さこそが、このサイトに妙な心地よさ、というかアナログ感覚というか、本物の写真美術館のような感覚をもたらしているような気がしてきた。
実はここからが、なんで、あえてこんな記事を書こうかと思ったポイント。 実はやたらと操作の効率を求めるよりも、ひと手間かかるくらいのサイトの方が愛着がわくんじゃないか、という話し。
例えば京都でのお寺巡り。たまに入り口から思いっきり遠回りなお寺もあるけれど、その分、景色の変化が楽しめるようになっていたり、予想もしてなかった発見があったり。 パリも街として、いろいろ不自由なところはあるんだけれど、その不自由もひっくるめて愛らしいところがあったり。
パソコンって、そこらへんが便利さばかりが重視されてきたところがあるから、例えある程度は気持ち良さを追求してきたMacでさえ、しばらく仕事をしている、いろいろなタスクのウィンドウで画面が覆い尽くされて、なんだか雑多で複雑な画面を眺めざるを得ないことも多い。
そんな時にnikonnext.comを開くと、いきなり画面を占有されて写真だけの世界に放り込まれる。 しかも、操作が不自由でショートカットキーも何もないので、この仮想の美術館巡りを効率よく「こなす」といったことはできず。IT初心者もエクスパートも徒歩のペースで歩まされることになる。
これが、なんともまどろっこしく感じるところもあるのだけれど、逆にこの不便さがいいと感じているのは、決してまた機材を貸してもらおうと思って書いているおべっかではない。
元アップル社のガイ・カワサキ氏からこんな話しを聞いたことがある。昔、アメリカでミルクに溶かすだけでできるパン・ケーキミックスが出たところぜんぜん人気が出なかったが、ミルクに入れた後、ちょっとかき回す必要があるちょっとだけ面倒なパンケーキミックスにしたら、爆発的に売れるようになった、という。
美術館巡りにしても、お寺巡りにしても、旅にしても、ただ作品や景色、町並みを干渉するだけでなく、人はその際に生じる面倒なプロセスも楽しんでいる部分があるんじゃないだろうか。 もちろん、まどろっこしさが許せないインターフェースもある。例えばページをめくるのに、やたらとフリック幅の大きすぎる電子ブックリーダーなどは、どうにも手に馴染まない。 でも、nikonnextの面倒臭さは、むしろ心地よいくらいに感じた。 以前、このブログでもさんざん紹介している経験経済という本を訳された岡本 慶一 さんとパネルをさせていただいたとき、岡本さんがしきりに「裏の効率と表の非効率」。
ようするに、企業はお客様に接しないような部分は徹底的に合理化してコスト削減などをする必要があるが、逆にお客様に触れる部分は徹底的に「非効率化」にする。具体的には、生身の人間によるぬくもりの対応を入れ、手間をかけるべき、と説いているものだ。
このnikonnextのナビゲーションのインターフェースは、決してぬくもりのある非効率でもなければ(いや、インタビューコーナーなどは、かなりぬくもりを出そうと頑張っている)、顧客のためを思っての思いやりの非効率でもないかもしれない。でも、操作のリズム感などが妙に心地よく感じるのは私だけだろうか。
もっとも、一度、一通りの作品を見終わると、また好きな作品まで戻るには、大きな美術館を半周戻るような面倒臭さがある。 一度、訪れた後、再び訪れるまでは、ちょっと間が空いてしまいそうな当たりも非効率の故に本当の美術館に似ているのかも知れない。
長々と書いてきたけど、もう1回、要約すると、 こういう、ちょっと非効率で面倒臭さもあるインターフェースも、狙ってやっていれば(そうなのか確認してないけど)案外いいよね、ということ。
まだ知って間もないので、どれくらいのサイクルで展示替えがあるのかもわかっていないけれど、一応、世界のニコンらしく世界各国語のナビゲーションも用意されているので、ぜひ海外のニコン好きにも教えてあげましょう。
なお、ニコンの将来に対する取り組みや製品もちょっとだけ紹介されていて、そちらもニコンファンにはお勧め!
ニコンネクストには、機材を貸してくれたことだけでなく、Webサイトのデザインについて、もしかしたら新しい気づきをくれた、という点でも感謝をしたい。