不況でも成功し続けるアップルの「選択と集中」

Steve Jobs at Oscar

ブロガー、WAYNE SUTTON氏がアカデミー賞会場で撮影


いつもじっくり暖め過ぎて超大エントリーになりがち(=更新滞りがち)なので、今回は最近、気になっているニュースをつなぎ合わせただけのお気楽投稿。

映画を3D時代に突入させ、ものすごい観客動員数を稼いだ「AVATAR」を抑え、「ハートロッカー」が6冠を受賞したアカデミー賞だが、その授賞式に、このブログにも度々、登場するIT業界の名士の姿があったと言う。

ITジャーナリストのRobert X. Cringelyが「アカデミー賞授賞式」で一番の金持ちと評したその人とは、ディズニー社の最大の株主で、米Forbes社が米国の富豪トップ400でも紹介した、スティーブ・ジョブズ、その人だ。

ソース:
Apple 2.0: The richest man at the Oscars

このスティーブ・ジョブズが、もう1つ率いているのが、米国のデジタルライフスタイルブランドであり、自らをデジタルモバイル機器のトップブランドと紹介する米アップル社。

そのアップル社は、iPhoneが好調ならiPodも好調、その好調ぶりが、収益率の高いMacにも飛び火して(昨年、春時点で1000ドル以上のパソコンでのアップルのマーケットシェアは90%以上
最近になって時価総額が2000億ドルになり、同1780億ドルのGoogleを引き離した。

世界の携帯電話のカタチを一変させ、携帯キャリアを一喜一憂させ、出版業界を右往左往させ、携帯ゲーム機のメーカーのネット化を一気に加速させたアップル社は、今、IT業界でも、もっともイノベーティブな企業の1つと見られているが、そのアップル社が研究開発に回しているお金はどれくらいか?

アップルとマイクロソフト、ソニーの過去10年の研究開発費を比べたGizmodo Japanのこちらの記事が面白い:
Gizmodo Japan : アップル vs マイクロソフト vs ソニーの研究開発費を比べてみた

現在マイクロソフトは全収入の約17%を研究開発費に、ソニーは約8%、アップルは4%未満を当てている。その一方で、製品あたりの研究開発費ではソニーが1製品当たり1150万ドル(約10億円)なのに対して、アップルが$7850万ドル(71億円)。

この逆転現象が起きるのは、すべてアップルのレーザー光線のように鋭い「選択と集中」のおかげだ。


2006年のNOKIAの世界シェア

 こちらは私が2年ほど前までの講演でよく使っていたスライドだが、世界シェアナンバー1だったノキアは、確かに世界の40%ほどのシェアを持っているかも知れないが、そのシェアを獲得するために開発している端末の数も半端ではない。悪い言い方をすれば「下手な鉄砲もなんとやら」の戦略で、端末1台あたりの平均シェアで見ると、0.5%ほども達成できていないことがわかる(実際には端末によってはそれを超しているだろうが、利益をあげている端末がある一方で、足をひっぱっている端末も多い)。似た機種が多いとは言え、1製品1製品に開発コストがかかるわけで、ある意味、すごいお荷物も背負っていることになる。

 それに対して、当時のアップル社の世界シェアは約1.5%ほどで、パナソニックとシャープの世界シェアの間くらい。

 ただし、大量な機種を、日本と言う狭い市場だけで売っているパナソニックやシャープと真逆で、アップルはたった2機種の製品(当時は初代iPhoneとiPhone 3G)を世界60-70カ国(当時、現在は81)で、販売。1機種当たりの平均シェアは0.75%ほどで、たしかに1台あたりの端末開発費用には、ものすごいお金をかけているが、その分、足をひっぱる機種をつくらず、この2機種を、精一杯いいものにしあげて、精一杯いいものにしあげたエンジニア達の足をひっぱらないように精一杯マーケティングし、その努力を無駄にしないように精一杯に販売している。

 選択と集中により、非常にいいバランスのビジネスを行っている。

 残念なのは日本のメーカーで、あらゆる製品ジャンルで「数打てば当たる」戦略を、展開している。
 実はアップルも'96年までは、その側にいた。
 製品数は3桁に達して、倉庫には大量の流通在庫が残り、財政を圧迫していった。
 しかし、そこでアップルは1度、血を流し、製品ラインを完全に0の状態にリセットした。

 初代のPower Mac G3という製品と同時にオープンしたオンラインストアのApple Storeに並んでいたパソコンは実質1機種(その代わりBTOで豊富なバリエーションがつくれる)だけだった。

 アップルはスティーブ・ジョブズが「我々はゴミはつくらない」と豪語するように、全ての製品で常にベストを目指すもの作りをしており、ゴミのような製品をつくらない。
 同社のデザイナーの一人、西堀晋氏も、パナソニック社を辞める前後に、ゴミ処理工場見学で大量のゴミを見つめた後で、ゴミになるような下らない製品はつくれないと肝に銘じたと、いくつかの場所で話されている。
 無駄な製品をつくらない、という考えは、エコ・コンシャスな今の時代にも通じるものがある。

 翻って、日本のメーカーはと言うと、生々しいので製品名は挙げないが、今、私の手元にある、技術仕様だけをあげると、かなり凄そうだけれど、実際に触ってみると、絶対につくった人達でさえ使っていないだろうとハッキリとわかる、粗悪な、ただ先端技術を詰め込んだだけの製品をつくっているところがある。
 友人に「なんで、iPhone以後の時代に、こんな製品がつくれるのかわからない」ともらしたら、友人から「おそらく官公庁関係だろう」。とりあえず、日本メーカーだというだけで、期日までにものをつくれば、官公庁関係からお金がもらえるから、粗悪でもなんでもいいから出してしまえ、ということなのだろうか。
 そんなものをつくっている会社が、いくらCEATECなどのイベントでCSR(Coroporate Social Responsibility)や環境への取り組みを唱ってもちゃんちゃらおかしい、という気がしてならない。
 おそらく、そんな製品をつくらされている人達もハッピーではないはずだ。

 何度も書いてきているが、今年は勝負の年だ。

 日本メーカーも、アップルが'96年に流したのと同じ血を流して、肉体改造をするべきタイミングではなかろうか。

P.S. もし、本質的な改革に目をつぶり、逃げ切ろうとする経営者に悩まされているなら、何かわかる形で、社員達の態度を示していってはどうだろう。例えば、下で紹介しているアップル関連のビジネス書を匿名ギフトで送りつけるというのはどうだろう ;-) デスクの上に大量に同じ本が置かれていれば、経営者だって無視はできなくなるはずだ ;-)


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そういえば、日経アソシエの最新号でアップルが学べる本の紹介をしたので、そちらもよろしくお願いします!

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投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2010年03月11日 | Permalink