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汎用エンジンとしてのスマートフォン(&タブレット)

トイザらスのApp Toys:クリックすると拡大した写真が見れます

上の写真、なんだかわかるだろうか? 答えは、アメリカのトイザらスの棚に延々と並ぶApp Toy(iPhone/iPad連携おもちゃ)たちだ。 ジャーナリストの神尾寿さんや西田 宗千佳さんに教えてもらいレンタカーで一緒に見に行って衝撃を受けた。


iPhoneやiPadのアプリをつくっても、App Storeでは埋もれてしまってなかなか見つからず売れないとよく言われる(それを言ったら本数は同じくらいでもAndroidのアプリはもっと埋もれてしまっている。埋もれていないのはWindows PhoneとWindows RTくらいだ)。

 でも、トイザらスや、アメリカの庶民がよくいく馴染みの生活量販店、TARGETでおもちゃコーナーの前を通るとイヤでも売り出し中のApp Toyのハデな箱が目に飛び込んでくる

 ソフトウェアはスマートフォンの画面が消えれば、消えてしまうはかない存在だが、フィジカルな形を持つおもちゃは、そこにあれば自然と目に飛び込んでくるし、目を閉じても実体が消えることはない。おもちゃを買った人は、そのおもちゃを楽しむためのアプリをAppStoreからダウンロードする。それによってアプリのストアでの順位があがれば、アプリ経由でおもちゃの存在を知る人も出てくるかも知れない。

 アトム(ここでは物理的なモノのこと)からビット(ここではソフトウェアの意)を誘導し、ビットからもアトムへと誘導する。  ーーこうした流れは、これからのモノの作り方、売り方の重要な1つではないだろうか。

 私は何も、これがアプリの売り上げを伸ばす新しい形だとは思わない。 実際、こうしたApp Toyと連携するアプリケーションは無料でダウンロードできるものだし、これらをつくっている会社の収益源は、どちらかといえばアプリそのものよりも、売っているおもちゃの方にある。

 これまで使ってきたものを、さらに便利に、さらに賢く、あるいはさらに安価に形にするエンジンとしてスマートフォンやタブレットに着目すると、モノヅクリに対するアプローチがまったく変わってくることがある。

 例えばあなたがカメラ好きで、自分のスタイルにあったデジタルカメラをつくりたいと思ったとする。どうするだろうか。デジタルカメラと言えば、高性能なレンズやCCD素子、液晶、時計、画像処理などをするためのCPUなど多彩な部品の組み合わせが必要で、およそ個人の力でつくるのは無理だろう。
 しかし、熊本でトイカメラを販売しているAdplus社は、資本金300万円、社員数数十名の小企業ながら、社長があこがれていたライカを思わせるデジタルカメラシステム「iCA(アイカ)」を開発し、ドイツ、アメリカ、スペインなど世界中の新聞やメディア、YouTube動画で紹介され話題となった。

 下が関連製品を含めた製品のシステム構成図だ:


面白いのは右上にはiPhoneの絵が描かれており「Use your iPhone as your digital back of iCA」と書かれている。
 カメラで最も重要なレンズやCCD、確認用の液晶部分は、既にiPhoneという非常に優れた製品があり、これが普及しているので、自社開発はせず、このiPhoneを部品として使い、レンズやフラッシュ、ケース、三脚を取り付ける固定部分とライカ風の外観だけを自社で開発しよう、というコンセプトの製品なのだ。




同社の社長が、製品に対する情熱やコンセプトを語った講演(12:30当たりから注目) by iPodStyleMovie

 冒頭で紹介したApp Toyのいくつかも、ほぼ同様のコンセプトだ。今の時代、子供達にとっては、低コストでつくられた安っぽいプラスチックボタンが並ぶおもちゃよりも、液晶画面でのタッチ操作の方が慣れている。とはいえ、おもちゃ会社が、どれだけうれるかもわからないオモチャのためにきれいで高解像度なタッチパネル液晶画面を調達し、その中に加速度センサーも取り付け、といったことをやったらオモチャの価格がハネあがってしまう。

 だが、よく考えればiPhoneという電子部品は、高精細な小型タッチパネル液晶を備え、さらには加速度センサーやGPS、カメラ機能、通信機能までも内蔵されている。それにこの電子部品は世界中で年間1億台以上のペースで売れており、その多くが一般家庭にゴロゴロしているのだ。しかも、初代製品の発売から5年間、多少厚みに違いがあるものの、製品の横幅はほぼ一緒で、オモチャを構成する一部品としても簡単に組み込めてしまう(親のiPhoneを使われるのが嫌な親はiPod touchという電話機能を省いた製品で代替することもできる/ここがAndroidと運命の分かれ道になった重要なポイントだ。車の連携製品もほとんどがiPhone/iPad用となっておりAndroid用は滅多に見かけない)。

 こう考えれば、にわかにこれだけ多くのApp Toyが登場したことも納得できる。

 こうした動きは、何も遊びの世界だけの話ではない。今、ビジネスのシーンも大きく描き変えられようとしている。


投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2013年01月05日 | Permalink