02011:the Revolution Goes On
多様な分野でバラバラに、同時多発的に起きた「変化」ではあるが、 これらの多くにはいくつか共通項があると思っている。
1.既存組織の枠組みを超えたところにイノベーションが生まれている
20世紀後半に効率化のためにつくられた組織構造は、いつの間にかイノベーションを阻み始めていた。優秀な人材が能力を発揮できない組織。異なる部署の多様な視点で揉んでこそアイディアがブラシュアップされるはずなのに、お互い相手の領域には口出しをしないことで「あんなの売れるわけない」とお互い思いながらそれを口にしない会議。 自分の仕事の領域ではないからと、救える人を救わなかったり。
2.小さく始める
今は景気が悪いこともあり電子出版にしても、飲食店の改革にしても、 多額の投資をして、いきなり最初から理想の形を完成させるような真似は出来ない。 だから、まずはできるところから、出来る限り少人数で堅実に改革を始めている。 これはいいことだ。 こうした改革の多くには、経済的な障壁だけでなく、 著作権や放送 vs 通信のような法的な壁もあるし、 消費者の側の受け入れ体制の問題もある。 いきなり、最初から全部やってしまうのではなく、 まずは一番、大事なところは何かを見極めて、できる範囲から少しずつやっていくことが大事だ。
3.フィードバックに習っての改善を重視
頭がいい人ばかり十人集めてアイディア出しをしても、それは所詮、十人のアイディアでしかない。それよりもCrowdsourcingの方が、正しい応えに到達しやすいことは、いくつかの本で科学的にも証明されている。 同様に出した商品をどうしたら、よりよくできるかにしても、実際に、商品を手にして使っているユーザーの方がよく知っている。 ソフトウェアが主体になり、すべてがネットにつながりつつある今日の世の中では、商品がどのように使われたか(誰が使ったのか、どれくらいの時間使ったのか、どれくらいの頻度で使ったのか、何時頃に使ったのかなどなど)を集めやすい。 時折、改変を加えて、パラメーターにどのような影響ができるかも調べやすい。
4.既存の枠組みを超えた人材集め
今、一番、存亡の危機を迎えているのは、 履歴書の学歴や職歴だけで人材を見極める人事部の人間だろう。 今ではネット系に限らず、多くの分野の人々が、ソーシャルネットワークなどを使って、 必要な才能や共鳴できる仲間を見つけ出している。
見ず知らずの同士で集まっていくことは少なくとも、ネットでの出会いをきっかけに、 何度かリアルで会話を繰り返し、自分とリズムが会う人か 「この人となら飛行場で一緒に一夜を明かすことになっても大丈夫そうか」という点まで、たっぷり試せばいい。
イ.量より質:「増やす」から「減らす」(あるいは「焦点を絞る」へ):
我々が日々、触れる情報の量は、もちろん、そうした情報を提供するサービスも、そのアカウントの数も、サービスを提供する会社も、サービスを紹介する会社も増えすぎてしまいました。
これは情報産業だけの話ではなく、製造業にしても 大量生産、大量消費、大量廃棄を繰り返す商品の数が増えすぎてしまった。
でも、作る側の視点で考えても、似たり寄ったりの製品をたくさんつくるよりも、 少ない製品で全力を尽くして、それを世界展開で1人でも多くに売った方が ビジネスの効率で考えても、商品ラインのメンテナンスのしやすさの点でも効率がいい。
アップルは、今や米国で2番目の規模になっても、 すべての商品を並べてもテーブル1個に収まる絞り込みを目指している。
新しいジェネレーションの商品を出して、機能を追加するとしたら その分、古くていらなくなった機能はしっかり削る。 この絞り込みこそが、使いやすい製品をつくる上でも欠かせない要素になっている。
ロ.「所有」から「シェア」
これについては小林弘人さん監修で、早くもベストセラー入りの予兆を見せている 書籍「シェア」を読んでもらうのが早いが、 伊藤穰一が5年以上前から予言していた「シェアリング・エコノミー」が、ここへきて急速に現実味を増してきた。
ヨーロッパでは自転車シェアリングが、当たり前になってきたが、 英米につづいて日本でもカーシェアリングが本格的に始まろうとしている。
私なりの言葉でまとめさせてもらうと、 今日、我々にとって重要な価値は「モノを所有する」ことから「体験を共有する」ことにシフトしつつある。
ハ.身体性を意識したIT改革
21世紀、最初の10年でもっとも重要なことは、これまで机の上に置かれたパソコンの小さな画面の上で、すべてバーチャルな形で行われていたIT革命が、21世紀に入ってから、人々の暮らしぶりや人間の交友関係、さらには政治までをも変え始めてきたことだ。
20世紀、パソコンマニアのIT業界人が中心に起こしていたIT革命は、 仕事の情報も生活の情報も、すべてパソコン画面に押し込めて、クリックやらドラッグやらでつなげてしまおう、という発想だった。
しかし、最近、この流れが変わった気がしてならない。 IT革命の技術がようやく、現実の世界・現実の社会での営みに軸足を置いているより多くの人々(ネット用語でいうところの「リア充」だろうか)にあわせはじめたのだ。
2年ほど前の講演では、よくこんなことを話していた。
生活の場面で、例えば今いる場所や、今、見ている景色、病気の症状、アート作品について調べたくなったとき、ポケットからサっと取り出して調べられるのがiPhoneの大きな魅力の1つだが、それと同時に、調べ終わったら、目の前にいる会話の相手に失礼でないように、さっとまたポケットに戻せることもまたiPhoneの魅力だと。
インターネットの普及後、日本では特にテキスト文化が発展し、知識偏重教育の悪影響もあってか「左脳デッカチ」の発想が、そこかしこにはこびってしまい、インターネットに知識と理論で武装したによる文字の大量爆撃が、大型化したパソコン画面を通して視界を埋め尽くしてしまい、なんだか必要以上に偉大な存在に見えていた。
でも、そんな大きな声も、iPhoneの3.5インチのスクリーンで見れば、視界のすみっこにチラっと写るだけ。現実世界の景色だ建物だ、生身の人間の存在感の方が、どれほど偉大かを忘れずに済む。
これからのIT革命は、そうした「身体性」。 「まず大事なのは人であって、ITはあくまでもその補助に過ぎないのだ」という、もっとも重要な視点を意識して作っていかないと受け入れられていかない。
ニ.責任のある長期思考を
最近、EvernoteのCEO、Phil Libinに勧められ読み始めた「The Clock of Long Now」という本の考え方に染まってしまった。
1960年代生まれの人は、空飛ぶ車や3Dテレビやロボットと共存する21世紀を夢見ていた。 1970年代生まれも、ギリギリそうかもしれない。 1980年生まれくらいになると、そろそろロボットは難しいかな、と思い始めてくるが、宇宙移民くらいは始まっているかも知れないと思っていた。 1990年代に入ると、なんだか、どの夢も叶わなさそうな自暴自棄が芽生えてくる。
いずれにしても、我々は時代を経るに従って、より短期思考になり、 自分たちの行動が、環境や市場や周囲の人々に、どんな影響を及ぼすかも、深く考えないまま行動することが増えてしまった。
Long Now Foundationは、そうした短期思考を改め、長期思考を広めていこうという団体だ。 そうした長期思考の大事さを、人々に思い起こさせる象徴として1万年動き続ける時計をつくろうとしている。 今から1万年前というと、ちょうど氷河期が終わって、農耕革命が始まったばかりの頃だから、これから先、1万年というのが、人類の寿命のスケールで考えると、どれだけ長い時期か想像がつく。
でも、そうした未来に対しても、我々の行為の結果が少なからず影響することを考えれば、人々は、もう少し注意深く、責任を持って行動ができるはずだ。
Long Now Foundationは、まさにそうした長期思考を人々に根付かせようと活動している。 冒頭の年賀の挨拶で西暦が5桁で書かれていたことにお気づきだろうか。 あれも、Long Nowの考えを反映したものだ。 彼らはまた1万年動き続ける機械式の時計をつくろうとしている。 100年、1000年単位で、仕掛けが動く、というもので、それを長期思考を象徴するモニュメントにしようとしているのだ。
なんだか、新興宗教のような怪しい雰囲気で見ている人もいるかも知れないが、 今という時間を、もっと長い期間として捉えようと「Long Now」という名前を生み出したのはミュージシャンとして知られるブライアン・イーノ氏。
それに加えて、「FREE」の著者で「TED」のオーガナイザー、そして「Wired」の編集長としても知られるChris Andersonや未来学者のPaul Saffo、Lotus創業者のMitch Kaporやコンピューター文化を深く研究してきた人なら何度か名前は聞いているであろうEsther Dysonまで、そうそうたる顔ぶれが活動に名を連ねている。
しかも、上で紹介した本の筆者は、今から40年近く前に「The Whole Earth Catalog」という雑誌をつくり、スティーブ・ジョブズにも大きな影響を与えたStewart Brandだ。 (ジョブズが、スタンフォードのスピーチの締めくくりで引用した「Stay Hungry. Stay Foolish.」もStewart Brandの言葉のはずだ)。
これは、ここ数十年の時代をつくってきた人々が、果たそうとしている未来への責任の活動なのだ。
ここ数年、我々は産業革命以降の環境汚染問題をかなり意識するようになったが、その一方で、インターネットでは情報の汚染を続けている。 インターネットの商用利用が始まったばかりの'90年代中頃から、「Webページの情報には賞味期限をつけるべき」という議論があったが、そうした議論をなおざりにしていた結果が、今日のインターネットだ。 インターネット上で築かれた人類の叡智を保存しつつ、いかにノイズの少ない、新しいインターネット環境(Internet2がその役割を果たしてくれるのだろうか?)へ移行していくのかの議論もそろそろ始めるべきなのかも知れない。
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