MoMAキュレータートーク

森美術館で、内覧会につづいて今回の展示、「モダンってなに?」の企画を行ったMoMAのキュレーター、Deborah WyeさんとWendy Weitmanさん、それから森美術館館長のDavid Elliott氏による講演+パネルディスカッション、「Curator Talk "Talk about Modern"」というイベントに参加した。

 4つのテーマの主旨については、私の内覧会の感想もそれほど的外れではなかったようだ。

 ただ今回のTalkで4つのテーマは英語のままの方が圧倒的にわかりやすいことに気がついた。いただいたプログラムは日本語のものだったので「日常性の中で」くらいはわかるが、あとの3つのテーマはちょっと抽象的すぎて何がいいたかったのかわからなかった。でも、4つのテーマの英語表記はいたってシンプル(右はその日本語版):

  • Primal  ーー根源に戻って
  • Reductive ーー純粋さを求めて
  • Commonplace ーー日常性の中で
  • Mutable  ーー変化に向かって



実は最初、2人のキュレーターには5つめのテーマのアイデアもあったらしい。そのテーマとは「Language」。
言葉に基づいた作品の存在は無視できないのでぜひ紹介したかったが、展示の開催地が日本と言うこともありLanguage Barrierへの懸念があったこと、それから森美術館がビルの形に合わせて4つのセクションにわかれていることから4つのテーマでいくことに決めた、という。
個人的にはこの「Language」をテーマにした展示もぜひ見てみたかった。いや、MoMAじゃなくてもいいから、どこかで近々やらないだろうか。西欧のものはもちろんだけれど、日本でも田中一光さんのポスター作品やら篠田桃江さん(父は個人的に知り合いらしい)の書の作品とかもあるとおもしろいかも。中近東にも伝統的な書の文化があり(しかも、同じ文字を使っていてもアラビア語とペルシャ語では流儀がまったく異なる)きっとそれを礎にしたモダンなタイポグラフィ作品があるはずだ。

脱線したが、そもそも今回、テーマ別(thematical)アプローチを取ったことについては、MoMAの組織的にもそういうやり方の方がやりやすく、それだけに前からやってみたかった、ということだった。METS(メトロポリタン美術館)などでは、キュレーターはこの年代の作品に詳しいといた感じで、キュレーターごとに得意分野が時代ごとにわかれていることが多い。それだけに時系列を意識した展示になってしまうことが多いが、MoMAでは写真なら写真、絵画なら絵画といった感じでそもそもキュレーターの担当するエリアの切り方が違うらしい。そういったこともあって、今回は時系列等に関係なく多少、年代が離れているものでも作品の根源にあるものが同じであれば(同じだとキュレーターが判断すれば)並べて展示するようにしたとのこと。
 「Happiness」もそうだったけれど、展示方法1つをとってもinnovateをしようとする姿勢は好感が持てる。

Curator Talkでは、この他にもリチャード・ロングの作品に使われている石がMoMAに寄贈されたときは170いくつかだったのが、今回、森美術館に輸送する際に数え直してみたところ180いくつかに増えていたこと。どうも自然に石が割れてしまったみたいで、ロング自身に聞いてみたところ、「それも自然を使った作品の1部だから構わない。6cm以下の石は取り除いてしまって構わない」という返事が返ってきたこと。イヴ・クラインの青はパテントされていること(そういえばこれはどこかで聞いた気がする)などおもしろい逸話をいくつも聞かせてもらえた。

残念ながら仕事になるわけでもないので、取材モードではなく完全一般人モードで参加して、ペン1本すら持って行かなかったので、もっとおもしろい話もあったのに忘れてしまった...

投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2004年04月29日 | Permalink