2007年を振り返る

またしても前回更新から時間が空いてしまい、気がつくと大晦日。

実は来春の発刊を目指して再び本の執筆をしているのだが、それと並行していくつかWebの記事も書いているので、時間がいくらあっても足りない。

2008年は仕事の数を絞ってwork-life balanceをよくしないと...と2008年の抱負を書こうと思ったけれど、その話は年明け最初の記事に譲って、こちらの2007年最後の記事では、今年1年を振り返ってみたいと思う。

Sunset in Hayama (@Denny's)
(今年、最後から2日目=大晦日前日の夕陽@葉山)

今年(そしておそらく来年の前半)は、これから先5年〜10年くらいの中心的議題が次々と登場した年だと思う。

まずは大局的なところから:

1.環境問題:



 記録的猛暑に見回れようとも、世界最大規模のハリケーンが世界を襲おうと「二酸化炭素と温暖化の関連性は科学的に証明されていない」といった声をあげる人もいるが、そういう人達は、「関係ないから何もやらなくていいんだ」という意見なんだろうか。
 「関係ない」からといって、これまでの消費社会、消費文明を続けていくったら、もしかしたら今は無視できている別のところにも、そのうち大きな歪みが現れてくるように思えてならない。

 今年、この環境問題について、私ができた小さな小さな貢献のいくつかを紹介しよう(貢献というにはあまりにも小さいレベルだけれど)。

 まず、いろいろな場所で、応援しているNGO「Think the Earth」について話してきたこと、それから応援している電気自動車「Eliica」について紹介してきた。
Eliica

 環境関連の取材は、まだまだ数が少ないが、意外だったのが夏に参加したFoo Campで、結構、みんな環境関連の話題について話し合っていたこと。実はFoo Camp初日にRechargeIT.orgというCO2削減のイニシアチブを始めている。

FOO CAMP

今年、書いた環境問題に絡んだ記事で今、思い出せるものは...

ネットに衝撃を与えた「インパクト・ゼロ」な生き方
地球意識を芽生えさせるソフトたち
地球×アート×IT


2.資本主義とグローバリズムによる歪み



これまでにも「格差社会」の問題が指摘されていたが、今年はNHKスペシャル「ワーキング・プア」や「〜難民」といったニュースが取り沙汰。もはや「無視できない問題」を通り越して、「切羽詰まった問題」になりつつある。
 フリードマンの「フラット化する世界 」が、これからの世界の怖い一面を紹介する一方で、フロリダの「クリエイティブ・クラスの世紀」など希望を与えてくれる本もある。
 BRICsを含む発展途上国が、発展した国になっていく中、日本を含むこれまで先進国と言われていた国々(やその国の人々)は、道をあけて、次のステージにいかなければならない。
 例えばモノヅクリ1つをとっても、上位のレベルのクリエイティブな作業に移行していかなければならない気がする。ただ、そうしたトランジションが雇用率や平均所得を維持したまま行なうにはどうしたらいいのかは、これからの日本の(そしてその他の先進国の)課題かな。
 私は、こっち方面はまだまだ弱く、取材も足りていないが、今年書いた、関係ありそうな記事はこのあたりか...

「Mac for クリエイティブ・クラス」宣言


3.産声をあげた新しいプラッフォトーム:



今年、1番の話題と言えば、やはりiPhoneだろう。同製品は、パソコンに変わる、1人1台、いつでもどこへでも持ち歩く、パーソナルで、使い勝手がよく、パソコン並みの性能を備えたデバイス=新時代のケータイというプラットフォームが誕生するきっかけをつくった製品だ。

 もちろん、1社だけですべてをつくることはできないが、アップルには、ちゃんと水面下で手を結んだよきライバル、Google社のAndroidがある。

 この2つが切磋琢磨しながら、パソコンでおかした失敗を、もう1度、やり直して、新しいパーソナルかつユビキタスな情報機器の新秩序をつくりだそうとしている。

 本件についての記事は、日経BP刊の「iPhoneショック
ウェブブラウザー戦線異状あり──2008年、「Safari/WebKit」が大ブレイク!?
あたりで記事を書いた。

この「ケータイ」というプラットフォームが2008年以降の社会に与える影響を考えて欲しい。
私はいずれ、これがおサイフやケータイ型テレビという枠を超えて、家の鍵になったり、すべての家電に対応したプログラマブル+遠隔操作対応のコントローラにもなる気がしてならない。

これからは「ケータイ」を握る企業が、家電業界を握る可能性もあるんじゃないだろうか。

家電メーカーにとって、いいケータイを生み出すこと、あるいはいいケータイとパートナーシップを結ぶことは、死活問題になる気がしてならない。



投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2007年12月31日 | Permalink

日本進出に向け前進のiPhone、その秘策とは..!?

本日、一番の話題と言えばやはりこれ:
Reuters(via CNet Japan): アップル、「iPhone」日本投入でドコモとソフトバンクと交渉

朝、auケータイに表示されるEZニュースフラッシュを見た家族に「iPhoneはドコモと組むことになったみたいね」と言われて、慌てて起きて上のニュースを確認しました。

 これは本格的な交渉が始まったということでしょうか。
いずれにしても、上の2社に加えて、auも非公式には話をしている(メールや電話での連絡?)という話しは私も聞いており、明日発売になる書籍「iPhoneショック」で書いています。

 さて、交渉が難航している一因として、キャリアからアップルに対して上納金を支払うという仕組みがあることがあげられていますーー実際、多くの方がこれまで、「この上納金をとるのをやめない限り、日本での実現は難しい」と指摘されていました。

 ところが、今回、「iPhoneショック」執筆に当たり、実はある条件が整えば、キャリアにとって毎月1顧客あたり1000〜1500円の上納金を渡すことは苦ではないことが、あるキャリア役員さんの匿名取材でわかりました。アップルは、この条件を崩すことはないはずなので、そういう意味では、日本でも、キャリアからアップルへ上納金を支払うこと自体は難しくなさそうです(このカラクリ、ぜひ!「iPhoneショック」を読む際の楽しみとして、ご覧になってください)。

 では、今、アップルとキャリア2社が話し合っているのは、上納金の額ではないかと思っています。
 新聞などに「ドコモ優位」などと出れば、ソフトバンクからいい条件が引き出しやすくなるし、逆もまた真。どんどん、値段をつり上げていって、片方かが競り負けて、勝負が決まり、MACWORLD EXPO/2008で正式発表、という形でしょうか?

投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2007年12月19日 | Permalink

未踏ソフト第1回オフ会に行ってきました!

先週の金曜日から風邪でダウン、週末は一切、起き上がれず、今もまだ微熱が残る状態ながら、
今日1日に伺った素晴らしい話しの数々に、ついつい病人であることを忘れさせられ、
終電近くまで、日本のIT業界の将来やら、中国系エンジニアの台頭、グローバル市場といった話しでもりあがってしまいました。

 今日、行なわれたイベントというのはSam古川こと、古川 享PM主催の「第一回 未踏ソフトウェア創造事業オフ会」というイベントです。

P1130151.JPG
 
 開催と同時に、古川さんが「古川 享ブログ」も顔負けの情報量で、日本のパソコン業界の黎明から、記憶に残るプロダクト、アスキーの思い出やビル・ゲイツとの思い出などを熱く語った上で、日本のソフト事業に期待することや、自らが学んだ教訓についても熱弁してくださいました。

 アスキーを去り、マイクロソフトに移籍したときの苦々しい思い出についても、赤裸裸かつ正直に話してくださり、心を打つものがありました。マイクロソフトに行くと決心したからには、公開前のアスキーの株をすべて返済したところ、アスキーの側も、一緒に旅立つ社員選びについてフェアな姿勢で応じてくれた、という話ですーーだから、若い方々にも「相手には常にフェアな態度で臨め」というお話でした。

 個人的にもう1つおもしろかったのは、古川さんがテープという形でBSDのソースコードをもらい、その日本語化を手がけたという話。その後、これがSONYのワークステーション「NEWS」に使われたことまでは聞いたことがありましたが、よく考えたら、現在のMac OS X "Leopard"にも、もしかしたら、この時代の痕跡が残っているかもしれません。そう考えると、ちょっとおもしろいですよね。



 古川さんと言えば、現在、月刊asciiで、Life is beautifulの中島聡さんと、2号にわたるぶっちゃけ対談をして大きな話題となっていますが、この中島さんについても、「私のであった天才プログラマ」の1人として、詳しく話してくれました(ビル・ゲイツとの大げんかなど)。
 ちなみに、私は、以前、中島さんの、こちらのブログ記事を読んでT林編集者に「絶対におもしろいから、声をかけて欲しい」と勧め、その結果、「bossa mac」のこちらの記事が誕生しました。それ以後も、中島さんの記事はいくつも拝見しているのですが、おそらく一度もちゃんと挨拶していません。ぜひ、今度、ご本人に紹介してください(といっても、今はSVですね)>古川さん

 ちなみに、CANDYには、私も衝撃を受けました。実家を探せば、晴海で行なわれていたビジネスショーでもらった、初期のCANDYのカタログがあるかもしれません。



投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2007年12月19日 | Permalink

片腕の発明家

【Eye-fiについて、結構、問い合わせが来ています。今晩でもFAQ的なものをつくろうと思っています。】

Spider Proを使っていると便利なのは、ザッピングしていて見かけたおもしろい番組を、いつでも巻き戻してみれることだ。

6時台のニュースは、(あまりみないが、みるときは)ザッピングしていることが多い。
今日もザッピングしていたら、何やらおもしろそうな発明文具っぽいものが出ていたので、もしかして文具王の高畑さんの作品かなと思って見ていたら、違ったのだが、これはこれでなかなかおもしろかったのでメモの代わりも兼ねてブログに書き留めておこうと思う。

NHKニュースの6時35分頃からのコーナー「夢かがやく」で紹介されていたのは、宇都宮市の海老名拓夫さんという方。Web検索しても、ほとんどひっかからないが、ぜひとも注目したい人物の1人。

あとでSpider Proを使ってコーナーの頭まで巻き戻してみてみたところ(全チャンネルを常に録画している全録機は、こうした思いがけない情報との出会い〜〜serendipity〜〜に非常に強い)、30年来、自動ガラス扉関連の会社にお勤めだったようだが、13年前に脳卒中で利き腕の右腕が使えなくなってしまったという。

 だが、それでもできるだけ人の手を借りたくないと考えて生活していて、生活の中で、1人で片手ではやりづらいちょっとしたことを、行なうための日用品を次々と発明している、という。

 例えば片手で使う爪切り。
 映像つきで見せられないのが残念だが、これが非常によくできている。

 片手で簡単に洋服がかけられる折りたたみ式のハンガー。

 そして...なぜか、納豆の「かきまぜ機」(これだけはWebで情報が見つかります)

 納豆についている醤油をカットできるばかりか、特殊なヘラみたいな道具を使ってかき混ぜやすくしてあるようです。
(なんで、納豆かと思ったけれど、もしかして宇都宮市だから?【訂正:って、宇都宮はとくに納豆は有名ではないですね】)

 このように逆境をバネにして、人のために行動を起こせる人って素敵だと思います。


投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2007年12月10日 | Permalink

自著を通して知る書籍販売のイノベーション

9月以降、尋常でないほど忙しかったのには理由があります。
実はいくつかの本の執筆を同時に進めていました。

来週、単著(自分1人で書いた)本が2冊、ほぼ同時に発売されます。

私は日頃から取材や人にあうことが多く、一部の編集者には「一生、本が出せない」と言われていました。ニュース記事や分析記事といった消耗型の記事に時間を消耗されて、じっくり本をまとめている時間がないからです(それにニュース記事はあとでまとめなおしても価値がない。もっとも、10年以上、つづけてきたおかげで、今では昔取材したニュースが歴史的価値を持っていますが)。
私自身も昔は日々の仕事に忙殺されていて、そもそもそんな余裕がありませんでした。
初めてチャンスをくださったのは元H川書房のmuratさんですが、もったいないと思いながらもお断りしてしまいました。その後、元アスキーの飯田成康さんのおかげで、初めての本を出せたのですが、共訳本でした。それ以後、何冊か出した本も共著本ばかりです。

 というわけで、実は単著(1人で書いた)を出すのは今回が初めてとなります。
 それが、いきなり2冊、ほぼ同時のタイミングで発売することになってしまいました。

 どこかのタイミングで紹介しようと思っていたのですが、今日、「SPOTLIGHT!」さんというブログで紹介されているのを見て、そろそろ紹介する時期かな、と思いました。

 どちらもアップル関係の本と言えば、アップル関係の本です。

 書店での発売の順番に紹介します。


 17日に発売となるのが(書店は18日かもしれません)
 アスキー刊の「スティーブ・ジョブズ 〜偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡〜


Stevejobs

ジョブズの半生をレアな写真と、彼自身の人を惹き付ける言葉や時代を反映するエピソードとともに綴った本です。

 もう一冊は日経BP刊の「iPhoneショック」。

Iphoneshock

 今年、Google検索でももっとも注目された検索語となった「iPhone」。たったパソコンメーカーから、音楽業界で無視できない存在になり、わずか1年足らずで携帯電話業界でもっとも影響力がある会社になったアップルのiPhone戦略、iPod戦略を振り返りつつ、日本のメーカーがどう頑張ったらいいかを一緒に考えていく本です。

どちらもアップルに関係した本ではあるけれど、まったく違う種類の本です(個人的には表紙の色で黒本、白本と読んでいます)。

実は今週、これらの本が出たことで、amazonを使った本のマーケティング的な部分をちょっと学ぶことができました。

例えばこれ:

amazon.co.jp/apple



amazonのURLというと、いろいろなコードが埋め込まれた長ったらしいURLというイメージがあったんですが、こんなことができたんですね。

そこで試しに「amazon.co.jp/ipod」と入れてみると、こちらは特定商品の宣伝ではありませんが、やはりiPod関連製品がズラっと表示されました。

amazon.co.jp/macと入力すると、いきなりインクカートリッジが出てきて驚いたのですが、よく見るとページの上に「アップルストア」と出ています。
どうやらアップルストアの出張所のようです。

 今回、本を出してもう1つ学んだのは、amazon先行発売。
 日経BPの「iPhoneショック」は、書店売りは20日からですが(予約の受付は開始しているようです)、amazonでは13日から先行発売をするようです。
 つまり、書店売りは「スティーブ・ジョブズ 〜偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡〜」の方が先ですが、amazonでは「iPhoneショック」が先に発売となります。
 そういえば、「スティーブ・ジョブズ 〜偉大なるクリエイティブディレクターの軌跡〜」は18日発売と聞いていたのに、amazonでは17日になっているのは、こちらも先行発売しているからかもしれません。

 本を売るというだけの単純な行為でも、いろいろイノベートする余地はあるのだなぁ、と改めて感心させられました。
 リアルの書店の方にも、リアル書店ならではのイノベーションがあると思いますし、ぜひとも頑張って欲しいところです。できる範囲での協力は惜しまないつもりです(できれば、日本のリアル書店発の、新しい書店のあり方、みたいなアイディアを(ビジネス特許を獲得した上で)海外に輸出したいですよね!)

 なお、私はこれはイノベートしようと思っているわけではありませんが、以前から少なくとも自分の本にだけはアフィリエイトをいれないようにしています。
 これは単純に「気持ちがいい/悪い」といった感覚の問題です。
 自分の本でアフィリエイトをもらうことに「私は」居心地の悪さを感じてしまい、外した方が気が楽だからです。
 他の人にもそうして欲しいということではありませんし、否定するつもりは「一切ありません」。実際に他の方のブログで、その方のアフィリエイト経由で本を買ったことも何度かあります。

 以前、このことを書いた時、どなたかがトラックバックで「これは新しいマーケティングか?」と評価してくれていました。確かにそう見るとおもしろいので、これからはそういおうかと思っています。
 自分で自分の本を紹介するよりも、他の方が自分の本を紹介してくれた方がいいですもんね。

 これらの本が気になった方は、トラックバックで、他の方のレビューをしっかり読んでから、ぜひその人のアフィリエイト経由で買ってください(どなたか、そういうブログパーツをつくってくれるとうれしいです。ついでにamazonなり、Yahoo!ブックス、楽天ブックスがそういうブログパーツをプロデュースしてくれてもいいかもしれません。私は使います)。
なお、これまではちょっとでも関連のあるトラックバックは残していましたが、この記事に関しては、あまり関係のないトラックバックは消します。

 1447年のグーテンベルグの活版印刷技術までいくと遡り過ぎかもしれませんが、何百年という歴史のある書籍の販売方法1つをとっても、世の中のコンテクストにあわせて常に進化しており、まだまだいくらでもイノベーションの余地があるのです。
 
 今回書いた2冊の本は、書いている過程でも、学ぶことがたくさんありましたが、まさか売る段階になっても重要なレッスンを学べるとは思ってもいませんでした。

投稿者名 Nobuyuki Hayashi 林信行 投稿日時 2007年12月08日 | Permalink